【side天音(あまね)】

 遅すぎたかな、と思って時計を急いで確認したら、約束の時間の3分前。危ない。ギリギリ間に合ったみたいだ。良かった…。昨日、寝られなかったから…。

 事の発端は、友達皆でやったババ抜き。

 ワースト一位とワースト二位とワースト三位の人には、罰ゲームが。

 ——《好きな人と1日デートする。口実など全て自由。※ただし、いない場合は相手を自由に決めて良し。》

 私はそれでワースト二位になったわけで、それを口実に作るだけで満足していて渡すつもりのなかったチョコレートを、近藤くんに渡すことになった。

 罰ゲームだからっていうのももちろんあったけど、ただ単に渡したかったからというのもあったんだ。

 …言おうとしていたのに、いつのまにか言う前にデートに行くことになったわけなんだけど。

 私の名字「日名瀬」と、近藤くんの名前「日奈瀬」の読み方が、どっちも「ひなせ」だから、近藤くんのことは東くんなどのイケメンの次に(なずなが騒いでいるから)よく知っている人物だった。

 第一印象は、「髪切ればいいのに」って気持ち。だって、前髪があんなに長いと目に入ったりして痛そうなんだもん。

 そんな感じで、特に話すこともなかったはずの近藤くんを、私がこんなに好きになるなんて、思いもしなかった。

 キョロキョロ、近藤くんを探す。…まだ、いないっぽい。

 まだかな、まだかな…とソワソワしていたけど、自分が今どんな格好をしているのか気になって、パッと手鏡を取り出す。

 前髪が、やばい…!

 櫛、櫛…と探したけれど、見つからない。置いてきちゃったみたいだ。どうしよう、取りに行こうかな。そう思って、辺りを見回す。

「……わっ」

 いた。いた、近藤くん。なんで? なんで髪切ったの? 似合いすぎてるよ、近藤くん…!

 喉が、詰まったように声がかけられなくなる。