急に心拍数が上がり出した。日名瀬さんはまだ自分に気づいていないみたいだ。…あ、手鏡を出した。前髪を確認してる。可愛い。…って、なんだかこれじゃ変態みたいじゃないか。

 声をかけないと。と、思うんだけど、日名瀬さんが急にキョロキョロ辺りを見回し出したから、なんだかもっと見ていたい気持ちに駆られてしまって、なかなか声がかけられない。

「…あっ」

 ガラス越しに目が合った気がした。実際は、日名瀬さんはガラスを見るには遠めの場所にいるから、目が合ったと思ったのは僕だけなんだろうけど。

 それはすぐに2人の人物によって遮られる。

「誰か待ってるの?」

「可愛いね。それともナンパ待ち? なんちゃって」

 思わず振り返る。

 僕は助けに行こうか迷う。だって、彼氏ではないわけだし、日名瀬さんが迷惑しているかどうかもわからない。それに、彼氏だと思われたら日名瀬さんは嫌な気分になるだろう。
 だから僕には助けに行く口実が必要だ。そういえば、どこかのドラマで「俺の連れなんで」ってセリフがあったっけ。

 日名瀬さんは——。

 どんな顔をしているのだろう、と考えるより先に、表情が見えた。——怯えているように見える。

 その瞬間。