「言われなくたって、勝手にしちゃうもん!」

 『しちゃうもん』って可愛いな、と思ってしまうのは、きっと僕だけじゃないはず。

 …だめだ。そう思わなかったことにしよう。

 ふんっ、と小さく言って、友達から離れる日名瀬さん。

 …えっ、こっち来た。

「ごめんね、聞こえてた?」

 本当は丸聞こえだったけど、僕は「ううん」と首を振る。



 無駄に気を使わせるわけにはいかない。

「良かった。…でも、本当にごめんね。自分から話しかけてきたくせにって感じだよね」

「…気にしないで」

 僕が暗い顔をしていたのかもしれない。

 日名瀬さんは、僕の顔を覗き込むようにして言った。僕が『気にしないで』と言った時、少しほっとしたような顔をした。

「近藤くん、あのね。ちょっとついてきてほしいんだけど、良いかな?」

 照れたような仕草。可愛すぎるからやめてほしい。すでに渡したのかは知らないけど、手作りチョコは僕宛てじゃないんだから。



 …手作りチョコは友達宛てかもしれないけれど。でも、僕のことを好きじゃないのは確かだから……、やめてほしい。

「…いいけど」

 ツンとした態度。…上から目線キャラとか、今ドキ流行んないだろ馬鹿め…。個人的な意見だけど。

「やった」

 日名瀬さんがなぜか小さくガッツポーズ。小さな声で呟かれたその言葉。聞き流したいのに聞き流せなかった。

 くそ…日名瀬さんめ。

 日名瀬さんが先に何歩か歩いてから、手招きする。

 …これ、ついて行くってことは日名瀬さんの後ろをしばらく歩くってこと?