「ねえ、近藤くんちょっといいかな?」

 ドキン、と心臓が大きく脈を打った。

 ——この声は、日名瀬さんだ。

『近藤くんちょっといいかな?』

 僕の心の中でその言葉だけが復唱される。

「こん——」

「はっ、はいっ!」

 思わず大きな声を上げて振り向いた。恥ずかしい。注目を浴びている。

 日名瀬さんの友達は引いたような顔をしている。僕の反応に引いているのだろうか。

「あの、ちょっといいかな?」

「あ、は、はい、い——」

「近藤くんちょっと待って」

 日名瀬さんの友達が焦ったような顔で僕の言葉を遮る。

「近藤くん、とりあえずここで待ってて」

 「行こ」と小さく日名瀬さんに言って、彼女は日名瀬さんの手を引きながら去っていく。

「ちょ、ちょ……っ!?」

 遠くまで行くのかと思ったら、すぐそこで止まった。

 …どうしよう、僕。

 期待しちゃってる。

「なんで近藤(アイツ)なの? 他にもっとたくさんいるでしょ? 例えば…東(あずま)くんとか!」

 結構大きな声で話されているから、丸聞こえだ。

「だってあいつ影で“モサ男”って呼ばれてるんだよ? あんた可愛いのに…“1日だけ”だし、“ただのゲーム”なんだから、もっとイケメンにすれば良いのに」

「…それは、別の人が呼んでるだけでしょ? 近藤くんのダメなところじゃないよ。それに、私——」

「もう! 勝手にしなよ! どうせ、“1日だけ”なんだから!」

 …なんの話? 何かの仕事?

 でももう大丈夫。あんな会話のあとに告白なんてありえない。もう何も期待してなんかない。大丈夫。

 ——目は覚めたから。