さらに要は、話し続けた。

「…そこで、もし、君達のいずれかが、俺の探している女性であるのなら、初めて会った時の、俺との会話を覚えているはずだ。」

なかなかの難題である。舞はあせった。
アドリブ劇の一番難しい所は、アドリブで話をつなげていくので、奇想天外、面白い話が出来上がり易い分、その膨らみすぎた話をうまくまとめるのが困難な所だ。
王子様役の拓海君が、急きょ抜けるというハプニングを利用して、自分の気力が残っている内に倫子をやっつけつつ劇を締めくくる。そんな舞の思惑が崩れようとしている。舞も疲れている。頭が働かなくなってきているのだ。

「え、ええっと確かあの晩は…あの、そ、そう、思い出したわ!王子様が面白い話がお好きとお聞きしてましたので、何やら色々とお話をして盛り上がってましたわ、おほほほ…」

今までの流れから言えば、かなり月並みな答えだったので、観客はし~んと静まり返ってしまった。
そのよくない雰囲気を察し、そのフォローを回される前に、と、誰もが気付かない内に、えんぴつもまた舞台の上からフェードアウトしていた。