日が落ちた空は真っ暗で、乾いた風が肌から体温を奪っていく。
隣を歩く天沢の髪も、睫毛も、風に靡いて揺れた。
「今度は何か奢らせて欲しいな。今思ったら甘いもの好きか聞いたのに、何もしてなかったし」
「そんなこと気にしなくて良いよ。天沢には言葉では表せないようなもの、色々もらってるから」
私は慌てて胸の前で手を振る。
天沢にそこまでしてもらう理由はない。
寧ろ私が何かを返さなくてはならないというのに、更に奢ってもらっては困る。
「…そっか」
天沢は少しばかり思考を巡らせた後、表情に翳を落とした。
ぐっと心を揺さぶられて、脳内で葛藤する。
いや、でもでも。
ここでお願い、なんて言える立場にないし。
でも断ったら断ったで、天沢はきっと落ち込む。
…私は天沢に笑っていて欲しい、だけだからなぁ。
「…じゃあ、私も天沢になんか奢る。互いに贈り合うなら良いでしょ」
「そうだね、名案」
幼い子供のようにぱっと表情を明るくする天沢に、くすりと笑みを溢す。
天沢はそんな私の様子を見て、さっきとは対照的な大人びた微笑みを浮かべた。
「…よかった」
「え?」
天沢の言葉の意味がわからなくて首を傾げると、彼は少しだけ視線を落とす。
街灯の光を受けた横顔は、いつもに増して輝きに満ちていた。