「そ、そういえばさ、天沢はなんで部活に入らないの?運動神経抜群だし。あ、運動得意だけど嫌いなの?なら別に運動部じゃなくて文化部でも大活躍しそうだけど」

別になんでも良かった。

だから、君がそんな顔するなんて思わなかったんだ。

「…うーん、別に運動は嫌いじゃないけれど…、部活自体あんまり、興味ないのかも」

彼の声は、触れれば割れてしまうシャボン玉のように脆くて、でもいつも通りこれ以上ないくらいに心地の良い、綺麗な音だった。

なんでだろう。

普段と同じ、穏やかな微笑みなのに。

こんなに胸が締め付けられるのは、なぜ?


「その、大した理由はないんだけれど、帰るのが遅くなるのは困るというか…」

硬直した私を宥めるために発された彼の言葉で、ぼんやりとしていた違和感がはっきりと形になる。


…帰るのが遅くなるのは困る?


理由を考えるとしたら、やっぱり真面目な彼のことだし家庭学習の時間が短くなるからだろうか。

でも、ここでバイトをしているわけだし…。

お金はいるけど、学力もいるってこと?

なんで…


──でも、順位を見るときはちょっと怖い。一位を取られたら困るから…。



そういえば、彼はいつかそう言っていた。


…もしや、彼は自分の意思で勉強もバイトもしているんじゃないのかも。

それこそ再婚した義父のためとか…?