再婚相手の昭文さんは、東堂さんの会社ほどじゃないにしても企業の社長をしている。
だからもう母はお金の心配をする必要はないだろうに、暮らしぶりは今までと変わらない。場所がアパートの一室から大きな一軒家に変わっただけだ。

昭文さんは、母のそういう堅実なところを気に入りつつもたまに私に愚痴ってくる。それは私からすれば惚気話に聞こえるので、仲の良さが窺え自然といつも笑顔になってしまうのだけど。

ずっと苦労してきた母だから、幸せな結婚をしてくれてとても幸せだと話すと、東堂さんは少しわからなそうに眉を寄せた。

「おまえはそれでいいのか?」
「え?」
「母親は無事幸せになっても、おまえは男を信じられないままなんだろ? 恋愛や結婚が幸せを決めるとは思わない。でも、納得して切り捨てるのと仕方なく諦めるのとはわけが違う」

そういう意味か、と東堂さんの言っていることを理解し、笑顔を向けた。

「大丈夫です。私も変わろうと思ってますから」

「変わる?」と不思議そうにする東堂さんにうなずく。

「たぶん、今まで恋愛をしてこなかったのは母からの教訓だけが原因じゃなくて、生活するのにいっぱいいっぱいだったっていう理由もあったんだと思います。脇目も振らずというか……振れずって言った方が正しいかもしれません」