それまでも父は家を空けていることが多かったから、離婚と聞いても特に寂しさは感じなかった。
むしろ、機嫌が悪い父にビクビクすることがなくなるのだと思うと気が楽になったほどだ。

母はやっぱり少し悲しそうではあったものの、それも当日だけで、それ以降は見事なほどに吹っ切れているように見えたし、実際生き生きしていたと思う。

「その頃から母には〝男はろくなものじゃない〟と毎日のように教えられてきて……気付いたら、男性とは一線引いて付き合うようになっていたという感じです」

『いい? ひなた。男なんて簡単に信じたらダメよ。どんなに甘えられても、支えてあげたいなんて思っちゃダメ。〝一万だけなら〟なんてお財布に手をかけた瞬間、人生が終わるの。自分でもどうかと思うくらいにしっかり見極めなくちゃダメ。これはお母さんが十年かけて学んだことだから絶対よ』

しっかり教え込まれたので、それに従い守ってきたらいつの間にか……という感じだ。
実際に、離婚してからの母は女手ひとつでパワフルに私を育ててくれた。

「でも、再婚したんだろ?」
「はい。十五年間もひとりで私を育ててくれた母がやっと信じられると思った人ですから、すごく嬉しかったです。現に父はとてもいい人で私にも優しいですし、母がネックとしていたお金関係もしっかりしていて安心しています。母が必要以上のプレゼントを欲しがらないので、そこは少し不満みたいでたまに文句を言ってますけど」