「いえ、特にそういう目には遭っていません。騙されるとか、そういう舞台にもまず立ってこなかったというか……。プロフィール見てくださったなら知っているかもしれませんが、中高は女子校でしたし、大学でも社会人になってからも特定の男性とお付き合いをしたことがないので」

正直、この年で経験がゼロだとカミングアウトするのは少し恥ずかしい。
いくら女子校といっても、高校の頃のクラスメイトで卒業するまで恋愛経験がなかったのなんて恐らく少数だ。

大学の頃だって、他の子はレポートとバイトに追われながらも空いた時間にうまく恋愛していた。
私みたいに隙間を埋めるようにとにかくバイトを掛け持ちしていたのなんて数割だろうし、その中で初恋もまだだった人の確率は……きっと相当低い。

周りの様子から自分が遅れている事実は知っていたので、これを言ったとき、どう思われるのかは毎回少し怖い。

いつだったか聞かれたとき、私の答えには君島先輩も渡さんも『えっ……』と言葉を失っていた。

だから、どんな反応を返されるのか不安になりチラッと見ると、東堂さんは片眉を上げていた。
でもそれは、信じられないというよりは、なにかが引っ掛かっているような顔に見える。

「……今まで一度も?」と聞かれ「はい」と答えると、少しの間のあと、「立ち入ったことを聞くが」と前置きをされた。