「俺はなんて呼べばいい?」と問われ、戸惑いながら答える。

「お好きなように呼んでいただいて構いません」

そもそも、今後の付き合いがあるとも思えない。この場限りなら呼び方はなんでもいいと思ったのだけれど。

「じゃあ、ひなた」

真っ直ぐな眼差しで名前を呼ばれ、ドキッとする。
まさか名前を呼び捨てにされるとは思ってもいなかっただけに、受け身がとれなかった。

やたらと速い速度で動き出した胸に言葉を失っていると、東堂さんが背もたれに背中を預け私をじっと見るから、ますますドキドキする。

「蒸し返すようで悪いが、あの見合いの席での俺の態度は礼儀を欠くものだったっていう自覚はある。なのに、ずいぶん簡単に許すんだな。謝罪が嘘かどうか、気にならないのか?」
「そう、ですか……? でも、東堂さんが嘘をついているようには思えなかったですし」

心臓が騒がしい中、必死に頭を動かす。
簡単に許すなんて言われても、しっかり謝ってくれたのにこれ以上どうやって許さずにいればよかったのか、そっちの方がわからない。

謝罪が嘘かどうかっていう話も、東堂さん側にメリットがないし、あんな真摯な態度を前に疑うなんて無理だ。

「素直に謝罪を受け入れてもらえて俺は安心したし、別にそういう部分を責めているわけじゃない。ただ、そんなよく知りもしない他人を疑いもしないで信用してきたのなら、今まで嫌な思いもしてきたんじゃないかと心配になっただけだ」

東堂さんが「たとえば、悪い男に騙されたとかなかったのか?」と聞くので、首を横に振る。