「いつも通りです。ただ最近は薬が切れると輪郭もわからないですね。書類見てるとちょっと困ります」
「高橋さんの場合はそうかもねえ、どうします、弱いけど一日に複数回飲めるやつのほうがいいですか?」
「どう違うんですか?」
主治医は瀬戸口という。
歳は四十代半ばくらいだがもう十年以上の付き合いなので高橋の頭の中の瀬戸口は初めて会った日からあまり変わっていない。
もう十年も、毎月、ここに来ているんだと否が応でも思わされた。
「治るんですか」
「事例はいまだにないですねえ、まあでもうまく付き合っていけば……」
「治らないなら、もう疲れたんです。考えるのも、生きてるのも」
「気持ちは痛いほどわかるんですけどね、まあそういわずに」
瀬戸口医師と初めて会った時、まだ三十代だったにも関わらず彼はすでに医師会ではそれなりの立場と発言力を持っていたと後で知った。
真摯な人だと思う。だからここで、自分の主治医をしてくれているんだろうとも思う。