彼女が旅立ったのを見守ると、僕は目を開けた。
目を前に広がる光景は、ピクリとも動かない少女と、彼女から溢れる赤。
と、周囲の時間が動き出す。
すぐに騒ぎが始まった。
女生徒の叫び声。駆け寄る教員。もちろん、誰も僕のことは見えていない。
上からも声が聞こえたので見上げると、屋上から見下ろす別の教員。手には靴と折り畳まれた紙が握られていた。
ふと、取り囲む集団の中に、蒼白の顔面を隠せないでいる少女を見つけた。
焦りか、怯えか。彼女は逃げるように立ち去った。僕はそれをただ冷めた目で見ていた。

この仕事にはいつも憂鬱にさせられる。
未練を残してこの世にとどまらないよう、ターゲットに嘘を見せ、前向きに旅立ってもらうのだ。
その為には事実と真逆の嘘だって見せる。
要するに、騙す。
もう一度、動かない彼女を見下ろす。
それが嘘でも、彼女は最期に少しでも幸せだったんだろうか。
わからない。
少なくとも、君はもう自由だよ。
なんて、死神の戯れ言かな。