「どういうわけかなぁ。」
ギャラリーオーナーのハジメは
軽トラックの脇で、無心に
青空モーニングの準備をする
カメラマン・クラシタと、
カフェのルイを
不思議な顔をして
眺める。
「ペーハも、カフェのブラザー
くんも、レディ達がぁ灯台の脇
道へ消えたの~、気が付かない
なんてねぇ。どうしてかなぁ」
ハジメは、
彼女達が消えた場所を見る。
冬枯れの獣道。
こんな忘れられたような道。
不思議な感覚。
ここは、
戦国の世には、
雑賀衆の城があり、
近代に灯台となった場所で。
「時代の層だよねぇ。」
ハジメは物憂げに目を閉じた。
ユアサ・リンネ。
ハジメがレディドールと呼ぶ
彼女は、
彼のギャラリーで作品を預かる
ドールアーティストだ。
それこそアーティストが
望めば、希少な材料も提供する。
アーティストの
インスピレーションを引き出す
ビジネスパートナー。
思えば
ギャラリストの仕事は
時代ごとに変換してきた。
アーティストの環境を整えてきた
中世のパトロン達は、
自身が客人でありながら
その財力とサロン運営で培う
人脈から情報を集め
アーティストの閃きを自分流に
多大に開発した存在。
その働きは
画商達に引き継がれ、
パトロン自身がアーティストの
客人だったのを、
アートの世界を細分化して
アーティストと客を分けて
取り持つようになった。
そして今日のアーティストは
すでに歴史の芸術家達とは
全く異なる人種へと
変化している。
ハジメは そう改めて感じている。
アーティスト自身が世界中に
移動できる交通網。
移動せずとも体験も
情報も覗けるデジタルライフ。
この瞬間から
世界中にプレゼンを行い
募る事が可能な資金調達の手段。
とうとう、
アーティスト自身が
ギャラリストも兼ねる事が
出来る。
ただ、どのアーティストも
器用な人間ばかりではない。
「ペーハはぁ、意外に~器用。」
目の前で動く、熊みたいな体の
寡黙なカメラマンは
数少ないハジメの身の上を
知りえる
アーティストで、
いろいろ奥手だが
器用に
仕事として、
カメラのシャッターを切れ
それでいて、
『オレ達は、、神事で、渡る
船です。心の世界を、、晒して
人の感情を、、揺さぶって、、
世界に波紋を、、投げる、船』
などと言って心を映すように
アート魂全開でも
シャッターを綴じれるタイプ。
ハジメが
レディドールと呼ぶ
アーティスト・ユア
ユアサ・リンネはそのタイプでは
ない。
自分の欠損した部分を
埋めるように、渇望するように
アートする彼女は
メンタルパワーが自個世界を
彩る要因になる。
簡単に言えば、
「ピュアなんだよねん。」
ハジメは、入江の外で燃える
炎に再び視線を投げた。
ユアサ・リンネは
この年末
唯一の家族を亡くした。
ハジメがそうで有るように。
世界で1人になる事の孤独。
ユアサ・リンネは
その準備さえなかった。
突然、施設に襲った疫災に
1週間で彼女の父親は
溺れるように亡くなったという。
「他にねぇ、頼れる人がさぁ
いなかったんだよねぇ。」
彼女からの消えそうな声の
知らせでハジメが駆けつけたのは
丁度、閉鎖される施設から
送られた葬儀人とかち合った
タイミングだった。
最後さえ会う事が叶わず、
火葬場さえ決められた場所でしか
使う事が出来ない状況に
霊柩車が列を作る現状を
葬儀人は説明する。
何より辛そうに話すのは
通常の葬送化粧でさえ
整えられないこと。
専用の布で
溺れたままの身体を
直ぐさま巻き上げなくては
ならなかったこと。
長く勤めた中で
葬送人でさえ 苦悶に満ちた
光景であったとの
面持ちで、
通夜も、告別式も行えない旨、
火葬場に入ることの不可能さと、
彼らさえ、入り口で列をなし
骨壷を受けとり、
彼女に玄関で渡すことに
なるという
現実を淡々と告げた。
それから、2日待って
ようやく彼女の手に
陶器の壺が
戻ってきた。
「だからさぁ、ちゃあんと
さよならをねぇさせてあげたか
ったんだよねぇ。こんな形でも」
少しずつ勢いを失くしていく
海上の火の光を瞳に映して
ハジメが呟く。
只
見つめるハジメに
横から思わない声がした。
「人間さぁ、上手く考えてるんだ
よ、昔っからさぁ、子どもん時
はよ、葬式なんざ、親戚の揉め事
にしかなんねー面倒なもんだっ
て思ってたぜ。けどいざよ、
親の葬式出すとな、この面倒な
もんが、けっこう、救われるも
んだって、分かるんだからよ」
さっきまで
テキパキと準備をしていた
ルイが、腰に手をやり
ハジメに語る。
「あんた、さっきからダダモレ」
見ると、
クラシタも腕組みをして
頷いている。
「あれぇ、本当にぃ?いやだなぁ
ボクも年かなぁ。って、さぁ
カフェブラザーくんって、絶対
会ってるよねん?何でかなぁ」
「タメ口だからだろ。てか、
マジ、女子ぃず。いないけど」
飄々とした様子のハジメに
ルイはトイレを指さして
無人を知らせる。
「ハジメさん、、どこか、
知ってます、よね。そのまま
行かせた、、違いますか?」
クラシタが、
まだ燃える海の炎を
親指で示すと、
ハジメは 嬉そうに
口を弓なりにした。
「ボクの占い師がいうにはねぇ。
そろそろ、彼女達が、探し物を
見つける頃合いなんだよねん」
そういうと、
灯台の脇道に視線をやる。
「な!ここ、降りたのか?!
そりゃ、海岸には降りれっけど
その先にゃ、まさか行って
ないだろな?てか、おい!
柵してただろ?どかしたのか?
先の舗道は台風で崩落して
んだぞ。崖っぷちなんだぜ!」
獣道になっている脇道に
柵がされているのを、
寄せているのを
ルイが認めて叫ぶ。
「知らないけどぉ、2人とも
全然彼女達が降りるのにぃ、
気が付かなかったじゃない?
ボクもちょっとボーッとして
たら、いっちゃったんだよぉ」
ハジメがおどけて
肩を竦めるポーズをして
クラシタが一言
「ギャラリスト探偵の、、
悪い癖ですね。、降りますね」
ため息をついた。
ギャラリーオーナーのハジメは
軽トラックの脇で、無心に
青空モーニングの準備をする
カメラマン・クラシタと、
カフェのルイを
不思議な顔をして
眺める。
「ペーハも、カフェのブラザー
くんも、レディ達がぁ灯台の脇
道へ消えたの~、気が付かない
なんてねぇ。どうしてかなぁ」
ハジメは、
彼女達が消えた場所を見る。
冬枯れの獣道。
こんな忘れられたような道。
不思議な感覚。
ここは、
戦国の世には、
雑賀衆の城があり、
近代に灯台となった場所で。
「時代の層だよねぇ。」
ハジメは物憂げに目を閉じた。
ユアサ・リンネ。
ハジメがレディドールと呼ぶ
彼女は、
彼のギャラリーで作品を預かる
ドールアーティストだ。
それこそアーティストが
望めば、希少な材料も提供する。
アーティストの
インスピレーションを引き出す
ビジネスパートナー。
思えば
ギャラリストの仕事は
時代ごとに変換してきた。
アーティストの環境を整えてきた
中世のパトロン達は、
自身が客人でありながら
その財力とサロン運営で培う
人脈から情報を集め
アーティストの閃きを自分流に
多大に開発した存在。
その働きは
画商達に引き継がれ、
パトロン自身がアーティストの
客人だったのを、
アートの世界を細分化して
アーティストと客を分けて
取り持つようになった。
そして今日のアーティストは
すでに歴史の芸術家達とは
全く異なる人種へと
変化している。
ハジメは そう改めて感じている。
アーティスト自身が世界中に
移動できる交通網。
移動せずとも体験も
情報も覗けるデジタルライフ。
この瞬間から
世界中にプレゼンを行い
募る事が可能な資金調達の手段。
とうとう、
アーティスト自身が
ギャラリストも兼ねる事が
出来る。
ただ、どのアーティストも
器用な人間ばかりではない。
「ペーハはぁ、意外に~器用。」
目の前で動く、熊みたいな体の
寡黙なカメラマンは
数少ないハジメの身の上を
知りえる
アーティストで、
いろいろ奥手だが
器用に
仕事として、
カメラのシャッターを切れ
それでいて、
『オレ達は、、神事で、渡る
船です。心の世界を、、晒して
人の感情を、、揺さぶって、、
世界に波紋を、、投げる、船』
などと言って心を映すように
アート魂全開でも
シャッターを綴じれるタイプ。
ハジメが
レディドールと呼ぶ
アーティスト・ユア
ユアサ・リンネはそのタイプでは
ない。
自分の欠損した部分を
埋めるように、渇望するように
アートする彼女は
メンタルパワーが自個世界を
彩る要因になる。
簡単に言えば、
「ピュアなんだよねん。」
ハジメは、入江の外で燃える
炎に再び視線を投げた。
ユアサ・リンネは
この年末
唯一の家族を亡くした。
ハジメがそうで有るように。
世界で1人になる事の孤独。
ユアサ・リンネは
その準備さえなかった。
突然、施設に襲った疫災に
1週間で彼女の父親は
溺れるように亡くなったという。
「他にねぇ、頼れる人がさぁ
いなかったんだよねぇ。」
彼女からの消えそうな声の
知らせでハジメが駆けつけたのは
丁度、閉鎖される施設から
送られた葬儀人とかち合った
タイミングだった。
最後さえ会う事が叶わず、
火葬場さえ決められた場所でしか
使う事が出来ない状況に
霊柩車が列を作る現状を
葬儀人は説明する。
何より辛そうに話すのは
通常の葬送化粧でさえ
整えられないこと。
専用の布で
溺れたままの身体を
直ぐさま巻き上げなくては
ならなかったこと。
長く勤めた中で
葬送人でさえ 苦悶に満ちた
光景であったとの
面持ちで、
通夜も、告別式も行えない旨、
火葬場に入ることの不可能さと、
彼らさえ、入り口で列をなし
骨壷を受けとり、
彼女に玄関で渡すことに
なるという
現実を淡々と告げた。
それから、2日待って
ようやく彼女の手に
陶器の壺が
戻ってきた。
「だからさぁ、ちゃあんと
さよならをねぇさせてあげたか
ったんだよねぇ。こんな形でも」
少しずつ勢いを失くしていく
海上の火の光を瞳に映して
ハジメが呟く。
只
見つめるハジメに
横から思わない声がした。
「人間さぁ、上手く考えてるんだ
よ、昔っからさぁ、子どもん時
はよ、葬式なんざ、親戚の揉め事
にしかなんねー面倒なもんだっ
て思ってたぜ。けどいざよ、
親の葬式出すとな、この面倒な
もんが、けっこう、救われるも
んだって、分かるんだからよ」
さっきまで
テキパキと準備をしていた
ルイが、腰に手をやり
ハジメに語る。
「あんた、さっきからダダモレ」
見ると、
クラシタも腕組みをして
頷いている。
「あれぇ、本当にぃ?いやだなぁ
ボクも年かなぁ。って、さぁ
カフェブラザーくんって、絶対
会ってるよねん?何でかなぁ」
「タメ口だからだろ。てか、
マジ、女子ぃず。いないけど」
飄々とした様子のハジメに
ルイはトイレを指さして
無人を知らせる。
「ハジメさん、、どこか、
知ってます、よね。そのまま
行かせた、、違いますか?」
クラシタが、
まだ燃える海の炎を
親指で示すと、
ハジメは 嬉そうに
口を弓なりにした。
「ボクの占い師がいうにはねぇ。
そろそろ、彼女達が、探し物を
見つける頃合いなんだよねん」
そういうと、
灯台の脇道に視線をやる。
「な!ここ、降りたのか?!
そりゃ、海岸には降りれっけど
その先にゃ、まさか行って
ないだろな?てか、おい!
柵してただろ?どかしたのか?
先の舗道は台風で崩落して
んだぞ。崖っぷちなんだぜ!」
獣道になっている脇道に
柵がされているのを、
寄せているのを
ルイが認めて叫ぶ。
「知らないけどぉ、2人とも
全然彼女達が降りるのにぃ、
気が付かなかったじゃない?
ボクもちょっとボーッとして
たら、いっちゃったんだよぉ」
ハジメがおどけて
肩を竦めるポーズをして
クラシタが一言
「ギャラリスト探偵の、、
悪い癖ですね。、降りますね」
ため息をついた。