武久 一 たけひさ はじめ
今は転職してギャラリストに
なっている彼とは、
同期とはいえ
高卒のキコと大卒ハジメで
すでに4つの年の差があった。
同期というのも
専科期と普通科期では入庁が
同じでも期数が違う為、
厳密にいえば同期ではない、
かもしれない。
基礎研修時期が重なり
後に配属本店が一緒の、
部違いの仲だった。
ちなみに、一度配属された
部署は定年までまず
異動はない。
サンズイ事務処理。
新人キコの配属先。
そんなキコが、噂で聞いたのは
配属新人の1人に
『お上』一族の庶子がいてる
という噂で、
後にそれがハジメだと知った時、
どうしてハジメはナサケなのかと
頭をひねった。
本来ならキャリアのイトヘン。
あっても ミノリじゃないのか?
と、本人に会うまでは
噂他人事に思っていた。
どちらにせよ、
新人は寮生活
ハジメとたまたま
ランチをしたのが
きっかけで
飲み友になっていたキコ。
そして 何故か
祭本番に向けて練習をする
コンチキチンが
聞こえる街中で、
友達の手伝いをするキコの
目の前に現れたハジメが
声をかけてきた理由が、
隣につれた自分の
先輩=トシの、
ナイカン用に
都言葉の教授を
してほしいだった。
「り、リンネさん、足いける?」
前を行くチョウコも
ハアーハアー、と息を上げていて
キコの足の付け根さえ
だんだんと痛みを覚えている。
茶屋から入った山の中は
相変わらず暗いが、
さっきの霧がかる道程は
妖かしめいた雰囲気はない。
「わたしは、大丈夫です。
でも、ペース落として
少しずつ行きましょうか。」
なのに、
足元の階段はさっきの道より
ガタガタしていて登り辛く
「はあはあぁ、きつい、、」
こめかみからしたたってくる
汗の量が 半端なく
こんなに
自分から水分が出る事に
キコは呆れる。
汗がツーーーと、つたう。
『キコ、付き合うか?』
ハジメの紹介から
半年。
そう言ってキコが答えも
しないのに、いきなりキスして
きたその先輩=トシは、
ルームシェアをしていた
同期女子が 急に帰ってきたのに
気がつくと
『さっきは、ゴメン。でも、
これで、俺はキコにとって
忘れられへん男になるやろ?』
と言って
ボー然と口を押さえる
キコに一瞥くれて
靴をとると
キコの目の前のベランダから
『また電話する。』と
ここ3階な、!!んやん!!と
叫ぶキコを見つめて、
飛び降りた!!
キコ達の会社は新人研修時に、
必ず寮生活をする。
門限後によく抜け出したと
笑って話ていた武勇伝を、
証明づける 鮮やかなお手並みで
キコは重ねられた感触と
飛び降りた先輩=トシの仕草に、
結局
乙女心を
ノックダウンされた。
「もう、心臓がもたへんわ。」
ゼイゼイあえいで登る
景観はいかにもで、
素晴らしい山の中具合で、
苔にびっしり覆われた
古道の石段は渋い。
が滑りやすく、何度も足を取られ
キコはギブアップ
しそうになる。
その時
『こんにちは!!』
疾風の如く
石段をヒュンヒュン『くノ一』の
身軽さで走り抜ける
女性の、、もう背中が
認める前に、
キコの目から消えた。
「ありえへんな、」
チョウコも、
喉を渇かした犬みたいに口を
開けて背中を見ていた。
ほんま、ありえへん。
そんな事が
あるって誰が思っただろう。
本来ならあるはずない
キコ達の年であった
人事異動。
異例中の異例だった。。
そんな中、
ハジメの紹介から
始まった同期の先輩=トシは
ガンガンのセクハラまがいで
アクロバティックな
アプローチを
キコにし続け
3ヶ月後には恋人=トシに。
早く結婚したいとゴネタ
恋人=トシは
1年の交際を、なんとか経て
旦那=トシになった。
そこにまるで見計らったかの
結婚と同時タイミングに、
旦那=トシは軍隊と称される
コメに、
キコは
公務員の中にあって
新人採用3年以内の離職率は
ワーストーワンという
キコの『会社』でも
さらに、
配属が決まるだけで
泣き出す新人がいるという
ギョウニンへと異動させられる。
「はあ、はあ、堪忍してぇな。」
鬱蒼とした杉の中に
石倉峠の看板はある。
雲をつかむようなる
峠道とはいえ、全然見晴らしが
いいわけでもない。
「えー、リンネさん、
また下るのん?イヤや。これ
下ったら、又登りちゃうん?」
チョウコが前を行くリンネに
非難すると、
「ご名答です。ここを下ると
あと1つ峠越えがあります、」
リンネの息も上がっている。
「うわあ、どんどん下りはる。
なるべく降りたないわあ。」
とはいえ、このあたりから
歌碑が立っていたり、
細めだった杉の幹が
だんだん太く大きくなり
たまに毬藻みたいな
苔たまご石があったりと、
古道の景観はバリエーションを
変えて見せてくる。
それでも、
急勾配な下り坂を
滑りそうに下りた後は
とうとう林道と合流して
又又登りになった。
腰や膝がガクガクする。
登って登ってひたすら登って。
「ホンマ、いつ終わるやろ、」
キコの根を上げに、
チョウコが
「ほんま、ゲーでるわ。」
とシャレにならない言葉を吐く。
そういえば、
キコと旦那=トシも、
夫婦そろって配置替えにあっての
新婚生活は
新居のマンションに帰れば
互いを励ましあう
毎日だったし、
夜の夫婦生活だった。
キコはデスクから一変、
鬼長のどや声一発で
ピンでリンジョウに飛び込む
日々。
旦那=トシも
それまで1人仕事のやり方から
大量投入の行軍仕事に
毎日10キロある書類カバンを
引っ提げて
怒号飛ぶリンジョウへ
走る。
怒涛の新婚1年でも、
甘々な1年で、
すぐに子供が出来るとキコは
思っていたぐらいで。
いつも飄々としていた旦那=トシ
に変調があったのは
その頃からだったのに、
キコは直ぐには
気付けなかった。
「子供が出来たらなんか、
いわんと
すぐに、うちが辞めてたら。」
キコの頭に何度も浮かんだ
自問自答。
山を只登る、
その単調で
体力を追い込む作業がまた、
キコに過去に繰り返した
問答を思い起こさせた。
それでも、
「さあ!最後の峠ですよ!」
歩けば、山は越せるらしい。
リンネの宣言に
チョウコもキコも 大きく
息を吐く。
どこまでも
急な石段を登っての、
越前峠にやっときた。
「雲取越の最高地点です。
はあー、 さすが息が、、
今は見晴らしが悪いですけど
昔は越前、今の福井県まで
見通せたのが名前の由来です」
確かにチョウコが洩らす言葉
「鬱蒼極まりないなあー。」
のままで。しかも、
「で、ここからが胴切坂です。」
石畳のこれまた一際大きな
急な坂が
折角上がった峠から
延々見下ろせる。
「なんや、物騒な名前で、
腰痛持ちには心臓に悪いやん」
チョウコが腰を擦って
坂を覗く。
「まあ、反対登りで、
本宮の大社から、ここの坂を
上ると横っ腹が切れそうに痛む
から、名前がついていますね。」
リンネの苦笑に
キコが
「怖いわあ。ほんなら
さっき上がってきたのも似た
坂ゆーことやんなぁ。」
それも無理がないと
思えるほどキツイ登りで、
「ほんで、お日さん陰ってきて」
また、霧が 出て来ている、、
「この下りの途中で旅籠跡の
休憩所がありますから、
そこまでは、頑張りましょ。」
リンネの提案に
チョウコもキコも頷く。
このままいけば、本当に
ヘッドライトで夕闇の山降りに
なってしまう。
「古道でこの白装束が役立つ
時間。逢う魔が時ですよ。」
俄先達
リンネの声が霧へと
吸い込まれる。
そんな霧の向こうに、
2人はじっと目を凝らして
リンネ声の後に続いた。
今は転職してギャラリストに
なっている彼とは、
同期とはいえ
高卒のキコと大卒ハジメで
すでに4つの年の差があった。
同期というのも
専科期と普通科期では入庁が
同じでも期数が違う為、
厳密にいえば同期ではない、
かもしれない。
基礎研修時期が重なり
後に配属本店が一緒の、
部違いの仲だった。
ちなみに、一度配属された
部署は定年までまず
異動はない。
サンズイ事務処理。
新人キコの配属先。
そんなキコが、噂で聞いたのは
配属新人の1人に
『お上』一族の庶子がいてる
という噂で、
後にそれがハジメだと知った時、
どうしてハジメはナサケなのかと
頭をひねった。
本来ならキャリアのイトヘン。
あっても ミノリじゃないのか?
と、本人に会うまでは
噂他人事に思っていた。
どちらにせよ、
新人は寮生活
ハジメとたまたま
ランチをしたのが
きっかけで
飲み友になっていたキコ。
そして 何故か
祭本番に向けて練習をする
コンチキチンが
聞こえる街中で、
友達の手伝いをするキコの
目の前に現れたハジメが
声をかけてきた理由が、
隣につれた自分の
先輩=トシの、
ナイカン用に
都言葉の教授を
してほしいだった。
「り、リンネさん、足いける?」
前を行くチョウコも
ハアーハアー、と息を上げていて
キコの足の付け根さえ
だんだんと痛みを覚えている。
茶屋から入った山の中は
相変わらず暗いが、
さっきの霧がかる道程は
妖かしめいた雰囲気はない。
「わたしは、大丈夫です。
でも、ペース落として
少しずつ行きましょうか。」
なのに、
足元の階段はさっきの道より
ガタガタしていて登り辛く
「はあはあぁ、きつい、、」
こめかみからしたたってくる
汗の量が 半端なく
こんなに
自分から水分が出る事に
キコは呆れる。
汗がツーーーと、つたう。
『キコ、付き合うか?』
ハジメの紹介から
半年。
そう言ってキコが答えも
しないのに、いきなりキスして
きたその先輩=トシは、
ルームシェアをしていた
同期女子が 急に帰ってきたのに
気がつくと
『さっきは、ゴメン。でも、
これで、俺はキコにとって
忘れられへん男になるやろ?』
と言って
ボー然と口を押さえる
キコに一瞥くれて
靴をとると
キコの目の前のベランダから
『また電話する。』と
ここ3階な、!!んやん!!と
叫ぶキコを見つめて、
飛び降りた!!
キコ達の会社は新人研修時に、
必ず寮生活をする。
門限後によく抜け出したと
笑って話ていた武勇伝を、
証明づける 鮮やかなお手並みで
キコは重ねられた感触と
飛び降りた先輩=トシの仕草に、
結局
乙女心を
ノックダウンされた。
「もう、心臓がもたへんわ。」
ゼイゼイあえいで登る
景観はいかにもで、
素晴らしい山の中具合で、
苔にびっしり覆われた
古道の石段は渋い。
が滑りやすく、何度も足を取られ
キコはギブアップ
しそうになる。
その時
『こんにちは!!』
疾風の如く
石段をヒュンヒュン『くノ一』の
身軽さで走り抜ける
女性の、、もう背中が
認める前に、
キコの目から消えた。
「ありえへんな、」
チョウコも、
喉を渇かした犬みたいに口を
開けて背中を見ていた。
ほんま、ありえへん。
そんな事が
あるって誰が思っただろう。
本来ならあるはずない
キコ達の年であった
人事異動。
異例中の異例だった。。
そんな中、
ハジメの紹介から
始まった同期の先輩=トシは
ガンガンのセクハラまがいで
アクロバティックな
アプローチを
キコにし続け
3ヶ月後には恋人=トシに。
早く結婚したいとゴネタ
恋人=トシは
1年の交際を、なんとか経て
旦那=トシになった。
そこにまるで見計らったかの
結婚と同時タイミングに、
旦那=トシは軍隊と称される
コメに、
キコは
公務員の中にあって
新人採用3年以内の離職率は
ワーストーワンという
キコの『会社』でも
さらに、
配属が決まるだけで
泣き出す新人がいるという
ギョウニンへと異動させられる。
「はあ、はあ、堪忍してぇな。」
鬱蒼とした杉の中に
石倉峠の看板はある。
雲をつかむようなる
峠道とはいえ、全然見晴らしが
いいわけでもない。
「えー、リンネさん、
また下るのん?イヤや。これ
下ったら、又登りちゃうん?」
チョウコが前を行くリンネに
非難すると、
「ご名答です。ここを下ると
あと1つ峠越えがあります、」
リンネの息も上がっている。
「うわあ、どんどん下りはる。
なるべく降りたないわあ。」
とはいえ、このあたりから
歌碑が立っていたり、
細めだった杉の幹が
だんだん太く大きくなり
たまに毬藻みたいな
苔たまご石があったりと、
古道の景観はバリエーションを
変えて見せてくる。
それでも、
急勾配な下り坂を
滑りそうに下りた後は
とうとう林道と合流して
又又登りになった。
腰や膝がガクガクする。
登って登ってひたすら登って。
「ホンマ、いつ終わるやろ、」
キコの根を上げに、
チョウコが
「ほんま、ゲーでるわ。」
とシャレにならない言葉を吐く。
そういえば、
キコと旦那=トシも、
夫婦そろって配置替えにあっての
新婚生活は
新居のマンションに帰れば
互いを励ましあう
毎日だったし、
夜の夫婦生活だった。
キコはデスクから一変、
鬼長のどや声一発で
ピンでリンジョウに飛び込む
日々。
旦那=トシも
それまで1人仕事のやり方から
大量投入の行軍仕事に
毎日10キロある書類カバンを
引っ提げて
怒号飛ぶリンジョウへ
走る。
怒涛の新婚1年でも、
甘々な1年で、
すぐに子供が出来るとキコは
思っていたぐらいで。
いつも飄々としていた旦那=トシ
に変調があったのは
その頃からだったのに、
キコは直ぐには
気付けなかった。
「子供が出来たらなんか、
いわんと
すぐに、うちが辞めてたら。」
キコの頭に何度も浮かんだ
自問自答。
山を只登る、
その単調で
体力を追い込む作業がまた、
キコに過去に繰り返した
問答を思い起こさせた。
それでも、
「さあ!最後の峠ですよ!」
歩けば、山は越せるらしい。
リンネの宣言に
チョウコもキコも 大きく
息を吐く。
どこまでも
急な石段を登っての、
越前峠にやっときた。
「雲取越の最高地点です。
はあー、 さすが息が、、
今は見晴らしが悪いですけど
昔は越前、今の福井県まで
見通せたのが名前の由来です」
確かにチョウコが洩らす言葉
「鬱蒼極まりないなあー。」
のままで。しかも、
「で、ここからが胴切坂です。」
石畳のこれまた一際大きな
急な坂が
折角上がった峠から
延々見下ろせる。
「なんや、物騒な名前で、
腰痛持ちには心臓に悪いやん」
チョウコが腰を擦って
坂を覗く。
「まあ、反対登りで、
本宮の大社から、ここの坂を
上ると横っ腹が切れそうに痛む
から、名前がついていますね。」
リンネの苦笑に
キコが
「怖いわあ。ほんなら
さっき上がってきたのも似た
坂ゆーことやんなぁ。」
それも無理がないと
思えるほどキツイ登りで、
「ほんで、お日さん陰ってきて」
また、霧が 出て来ている、、
「この下りの途中で旅籠跡の
休憩所がありますから、
そこまでは、頑張りましょ。」
リンネの提案に
チョウコもキコも頷く。
このままいけば、本当に
ヘッドライトで夕闇の山降りに
なってしまう。
「古道でこの白装束が役立つ
時間。逢う魔が時ですよ。」
俄先達
リンネの声が霧へと
吸い込まれる。
そんな霧の向こうに、
2人はじっと目を凝らして
リンネ声の後に続いた。