何かに気付いた四季ちゃんは困惑した表情をコロッと変えて、自信満々に僕に指摘するように疑問点をぶつけてきた。


「クリニックの名前は"高梨内科クリニック"ですよ?」

「うん。
 母の旧姓は高梨(たかなし)だから。
 いつも、尚子先生って呼んでるのと四季ちゃんの性格上、苗字の事なんて気にしてなかったんじゃないのか?
 もしかしたら、職業が事務職だったら気付いたのかも知れないけど。
 信じられないなら、今から電話して確かめる?」

なるほど。そういう事か。
母の旧姓と本名を知らないわけないと思うけど…事務職でないと気付かないものなのだろうか?
きっと、彼女は僕の勘違いで全くの別人物かと思ったのだろうか。
悪いけど、間違いなんかじゃないよ。
信じて欲しくてスマホを手にすると四季ちゃんは俯いてしまった。

「いっいえ。
 そこまでして頂かなくても……。
 尚子先生の貴重なお時間を頂く訳にはいかないので……。」

優しい彼女は母親の"せっかくのお休みを邪魔をするなんて出来ません。"と丁寧にお断りをした。
何も言えなくなった彼女は肩を落として俯き、ミネラルウォーターが入っているグラスを手に取り一口飲み、気持ちを落ち着かせようとしているみたいだ。
何となく勝ち誇った気持ちになり、この後の話しも上手く出来る気になってきた。