「遅かったね……って、なんか顔色悪くない?」

屋上へ行けば、先にお弁当を食べていた聡美は顔を歪ませながら私の顔を覗き込んできた。

「だ、大丈夫…。」

その視線から逃れるように彼女から視線を外して腰掛ける。
購買で買った焼きそばパンと先程のお茶を袋から取り出そうとしたところで、もう1本桃のジュースが入っていることを思い出して動きを止めた。

チラッと隣を見れば、聡美は黙々とお弁当を頬張っていた。けれどすぐに私の視線に気がつくと、なに?と言って箸を置いた。

そんな彼女にそっと桃のジュースを取り出して差し出す。

「え?」

視線を私から桃のジュースに移した隙に彼女から視線を外して呟く。

「あげる…。」

「え?!」

「ま、間違えて買っちゃって…聡美、甘いの好きでしょ…?」

消え入りそうな声が彼女に伝わっているかどうかの不安と、たかがこんなものを渡すのに緊張している自分への嫌悪感が胸を押し寄せる。
微かに震えている自分の手を、唇をぐっと噛み締めながら見つめた。
大きく脈打つ胸の鼓動を全身で感じていれば、スッと手の中のジュースが抜き取られて顔を上げる。

「ありがとう!」

そう言って笑った聡美に、私は目を見開いた。
こんな顔、今まで見たことがあっただろうか。
記憶を巡っても、まるで霧がかかったように思い出せない。

呆然としている私に、聡美はどうしたの?といつもの表情を取り戻して呟いた。

「あ…いや…喜んでくれたのなら…良かった…。」

そう言って袋から焼きそばパンを取り出して封を開けた。
ひと口それにかじりつけば、少ししょっぱいソースと少し甘いコッペパンが絶妙なバランスで口に広がっていく。
懐かしいその味に浸っていると、隣からクスッと笑うような声が聞こえて顔をそちらに向ける。

「幸乃って、私が甘いの好きなこと知ってたんだ。」

少しだけ嬉しそうに呟く彼女に、そりゃあまあと呟く。

「ふーん。そっか。」

それだけ言うと、彼女はまたお弁当へ視線を向けて箸を動かし始めた。
そんな聡美に少し首を傾げながらも、私も焼きそばパンを食べるのを再開させた。