「大丈夫…?」

彼女の言葉に頷きながら、俺は顔を洗った。
差し出されたタオルを受け取って顔を拭く。

「ごめん…。ありがとう…。」

彼女の方に顔を向けることは出来なくて、そっぽを向いたままそう呟いた。

「すごい泣いたし…目腫れてるし…。ほんと、情けない姿見せてごめん…。」

「謝られる意味が分からない…。」

「え…」

今まで聞いたことがない、少し怒ったような口調に思わず顔を上げれば、彼女は眉を寄せて俺を見つめていた。

「西川くんは情けなくないよ…。沢山我慢して、頑張ってきた…。涙を流すことは、いけないことじゃない…。溜まってたもの、出していかないと壊れちゃうから…。泣きたくなったら泣いて、笑いたいときに笑えば良いと思う…。」

控えめな、それでもどこか力強い声に、無意識に笑みが溢れる。

やっぱり、彼女は優しい。

「ありがとう…。…沢村も、泣きたいときは泣いて。俺…もっと沢村を支えられる男になるから。」

「え、あ…。」

チラッと彼女の方に目を向ければ、彼女は頬を染めながら、ありがとうと照れくさそうに呟いていた。

その姿に愛しさが生まれて笑みが溢れる。

ふと、この間父から聞いたある話が浮かんだ。

「……。」

彼女の方をもう一度見つめれば、どうしたの?と首を傾げられる。

大丈夫だろうか…。

そんな不安に駆られながらも、俺は彼女に向き直って口を開いた。

「沢村。」

俺の真剣な表情に何かを悟ったのか、彼女もまた俺の方に向き直ってこちらを見つめた。

「…母さんに…会ってくれないか…?」

ゆっくりと目を見開くと、彼女はそのまま呆然と俺の方を見つめていた。