「幸乃。」

教室を出たところで、私の耳に入ってきたのは聡美の声だった。

彼女は右手に手提げ袋を持って、眉間にしわを寄せながらこちらを見つめている。

「もう目覚めた?」

今朝の私の様子を心配していたのか。
心配そうな眼差しを向ける彼女にひとつ頷けば、そっかといつもの表情を取り戻して彼女はそう口にした。

「先に行ってるから。」

「え?」

聡美の言葉に思わずそう返せば、彼女はまた眉間にしわを寄せて、は?と声を漏らす。

「屋上。先に行ってるからね。」

先程よりも少し力強く告げられた言葉に、そういえば高校生の頃は彼女とお昼ご飯を共にしていた事を思い出した。

会話など殆ど無いお昼ご飯。

思い出して、ほんの少し体が震えた。

暫くして、彼女はそれ以上何も言わないまま、私の横を通り過ぎて行ってしまった。

「ぁ…」

小さく漏れた声は彼女に届くことはなくて。そんな彼女の後ろ姿を、私はただただ見つめていた。