『ごめん。』

去っていく背中を、私はただ呆然と見つめた。

傷付いて、傷付いて。自分が幸せだと思う道を選んだはずなのに、終わりなんてこんなにも呆気ない。

好きだと言われて、考えさせてと言った。
この選択から、もう間違いだったのか。

悩んで相談して泣いて。まるで自分が一番の被害者のような顔をして。
漫画の主人公にでもなったつもりだったのか。
押し退けて掴んだ幸せ。それは本当に幸せだった?


周りを見た。誰もいない。
暗闇の中で1人、私は立ち尽くしていた。

彼が好きだと、彼女は言った。
協力すると、私は言った。
私を好きだと、彼は言った。
考えさせてと、私は言った。
私も好きだと、彼に言った。
裏切り者だと、彼女は言った。

私は孤立した。彼は慰めてくれた。私は笑った。彼も笑った。

日常が戻っていった。まるで何もなかったかのように、時間は進んでいく。

彼が他の子と仲良く話してるのが嫌だった。
彼はこちらを見て、親しげに他の子と話をする。
まるで私の表情を見て楽しんでるようで。
彼への当たりがキツくなるのに、彼はどこか楽しそうだった。

何回も何回も何回も何回も続くそれに、耐えきれなくなってきた。
心のどこかで、お前なんて嫉妬する権利なんてないと言うのに、もう止められなかった。

ぐちゃぐちゃに、どろどろに。
もう原型すらも分からなくなった何かが、心の中で悲鳴をあげて暴れだす。

泣いた。辛かった。苦しかった。

もうやめようと私は言った。
彼は頷いた。

暫くして、私は彼にすがった。
彼は言った。

『ごめん。』

悲しかった。苦しかった。
でも冷静になった自分が言う。

見苦しい。気持ちが悪い。

鏡を見た。
歪んだ自分の顔は醜かった。気持ち悪かった。

こんな自分を知りたくなかった。
どこか他人に対して一線を置いて、自分は違うと冷めた目で他人を見ていた。

なのに。

見たくない。知りたくない。消えてしまえ。消えてしまえ。

醜い自分が脳裏に焼き付いてしょうがなかった。

消えてしまえ。消えてしまえ。消えてしまえ。消えてしまえ…。

他人の記憶から私が。この忌まわしい記憶が。私自身が。

全部、消えてしまえ。

鏡の中の私が言う。

『気持ち悪い。』