「幸乃、最近明るくなったね。」

あれから1週間。お昼ご飯を食べていた私に、聡美は突然そんなことを口にした。

「え…明るく…?」

自分には似つかわしくないそんな言葉に首を傾げれば、彼女は吹き出すように笑い始めた。

「そんな難しい顔しないでよ。何て言うか…ちゃんと前向いてるって感じがする。」

優しい笑みを浮かべながら言う聡美に、私は目を見開いた。

「ずっと俯いてる感じがあったから。何か良いことあった?」

その問い掛けに思い当たることは1つだった。
先週の優奈との出来事を思い出してぽつりと呟く。

「友達って…言われた…。」

「は?!」

急に声をあげた聡美に肩が震える。
彼女を見れば、唖然として私を見つめている。

「…誰に言われたの…?」

「え…優奈…。」

素直に優奈の名を口にすれば、彼女はポカンと口を開けたまま静止した。

「え…?聡美…?」

「あんた…そういうの言われないと分かんないの…?」

「え…。」

「てゆうか、それで喜んでるのが可愛いな…。」

ため息をこぼす彼女に、は?と言葉を返す。そんの私などお構いなしで、彼女は盛大にため息をこぼすと、こちらに視線を向けて笑った。

「言っとくけど、私も幸乃の友達だからね。」

「…え…。」

言われた言葉が、一瞬理解できなかった。
けれど何度も頭の中を巡る彼女の声に言葉の意味を理解する。

「改めて言うと恥ずかしいね…。あー…顔熱い…。」

手で顔を扇ぐ彼女を私は呆然と見つめていた。

『この先、私は幸乃と関わることはないと思う。』

思い起こされる卒業式での記憶に、胸が突き刺さるように痛くなった。
だけどすぐに、その痛んだ胸が癒されていくように先程の彼女の言葉が蘇る。

「っ…」

胸が苦しくなるくらい何かでいっぱいになって、目の前がぼやけていく。

「え…ちょっと幸乃?!」

彼女の慌てたような声で、自分が今泣いていることに気が付いた。

止めようにも止めることは出来なくて、ボロボロとそのまま流れていく。

「なに…泣いてんのよ…。」

涙を袖で拭いながら目の前の彼女を見つめれば、瞳にうっすらと涙の膜をはりながら優しく笑っていて。

「…っ…。」

その笑顔にまた涙が溢れていく。

心を閉ざしていたあの頃。
すべてが下らないと思っていた。
それでもその中に確かにあった想いを、後悔という形で教えてくれた。

やり直せるだろうか。

本当の自分なんて分からない。
この先のことなんて分からない。
それでも私は今を生きるしかないから。

向き合えなかったあの時間を取り戻すように、今度こそ私は前を向く。