「おはよ。」

次の日、何週間かぶりにスッキリとした朝を迎えられた私の後ろからそんな声が聞こえ、振り返ればそこには聡美が立っていた。

「あ…おはよう…。」

「体調はもう平気なの?」

その問い掛けに頷けば、そうと素っ気ない返事が返ってくる。歩き始めた聡美に習って私も歩みを始める。

「そういえば…昨日何か用があった…?」

「え?特にないけど。」

「え。」

思わず足を止めて目を見開いた。彼女もまた足を止めると、どうしたの?と怪訝そうな顔で私を見つめていた。

「え…あ…いや…。」

予想外の返答に何を返していいか分からずにいれば、彼女はその意図に気が付いたのか、クスッと笑みを溢した。

「なに?私が幸乃のこと心配して連絡しちゃいけない?」

少し悪戯っ子のように笑う聡美に目を見開く。
だんだんと胸が熱くなっていくのに気が付いて密かに拳を握った。

「4組の教室の前通るとさ、何となく幸乃のこと見ちゃうからさ…。昨日はいないなって思ってたら、長月さんに話し掛けられて。今日は休みだよって教えてくれた。返信が来なくて心配って言ってたから、私も送っておこうと思って。」

その言葉にじわじわと頬が熱くなっていって聡美から視線を外す。さっきよりも速くなった鼓動を感じながら足元を見つめた。

嬉しかった。私を気にしていてくれたこと。心配してくれていたことが。

こんなことは初めてで、不覚にも涙が出そうになって唇を噛み締める。

ゆっくりと顔をあげれば、どこか照れくさそうに笑う聡美に、私も笑みを溢した。

「ありがと…。」

「……別に。それにしても、あの時間まで寝てたの?」

歩き始めた聡美に付いていくように私も足を動かす。隣で心配そうに眉を寄せる聡美に、私はまた笑みを溢した。

あたたかい。

9月の生ぬるい風が吹き抜けていくなかで、私は確かにそう感じていた。