『私ね、◯◯くんが好きなの。』
頬を赤く染めながら、目の前の女の子は言う。
私は密かに胸を大きく鳴らしながらも、それが顔に出ないよう必死に顔を作った。
『だから協力してくれない?』
その言葉に私は笑みを溢して言った。『もちろん。』と。そう言った私に、彼女は嬉しそうに笑っていた。けれど、すぐにその笑顔は消えていく。
冷めた目で彼女は私を見つめていた。そしてゆっくりと口を開くと言った。
『裏切り者。』
冷たく鋭くなった声が、私の胸に深く突き刺さった。
痛くて苦しくて、込み上がってくる涙が溢れそうになって、必死に唇を噛み締めて堪える。
泣いてはいけない。泣いてはいけない。
だって彼女の言う通り、私は裏切り者だから。最低だから。
目の前に立っていた彼女はもういなくなっていて、辺りが暗闇に包まれていく。
私は崩れるようにしてしゃがみこんだ。
血が滲むくらいに唇を噛み締め、拳を握り締め、何度も何度も床を叩いた。
鈍い痛みを感じ始めて、口の中に鉄の味が広がり始めた頃、目の前に誰かが立っていることに気がついた。
顔を上げれば、そこには中学校の制服をみにまとった私がいた。
虚ろで、どこか遠くを見つめている。
その瞳には沢山の涙が溢れ落ちていた。
そんな私を呆然と見つめていれば、私はゆっくりと私の方へ顔を向けて言った。
『裏切り者。』
ピピピピピ…
「っ…は…はぁ…」
どこからか鳴り響く電子音が耳に突き刺さって頭に響いていく。
まるで走ったあとのようにあがっている呼吸を落ち着かせていく。
暫くして重たい体を上げ、ベッドサイドに置いてあるスマホを手にとって目覚ましを止めた。
未だにドクドク脈打つ鼓動はそのままに、ベッドから立ち上がって支度を始める。
鏡で自分の顔を見れば、唇が切れていることに気がついた。
実際に噛んでいたのか。
ふと先程の夢がまた脳内で再生されそうになって、必死に思考を止めた。
込み上がってくる涙を堪えながら私は支度を始めた。
「あんた大丈夫なの?」
下に降りて、朝ご飯はいらないと伝えようとした私に、母はそう言った。
「今日休んだら?顔色悪いし、フラフラしてるわよ?」
母のその言葉で、自分が弱っていることを理解した。そういえば頭痛もしているように思う。
そう思えばさっきよりも一層体が重く感じ始める。
「学校、電話しといてあげるから寝てなさい。どうせ今日午前中で終わりなんでしょ?」
その問い掛けにかろうじて首を縦に振ったとき、突き刺さるような痛みが頭に響いた。
「ほら、早く寝た寝た。後でスポーツドリンク枕元に置いとくからちゃんと水分取るのよ。」
母の言葉を右から左に、私は自室へと戻って部屋着に着替え直した。
不思議なもので。具合が悪いと思ってしまったらもうそんな気がして、体のあちこちが痛くなっていく。病は気からとはこういうことかと、痛む頭でぼんやりとそう考えながらベッドに潜り込む。
瞼は重たくて眠たい。
眠たいのだけれど、眠りにつくのが怖かった。
またあの夢を見る。
嫌だと心の中で叫びながら、また無意識に唇を噛み締めていた。
コンコン。控えめなノックの音で我に返って体を起こせば、ゆっくりと扉が開かれるのが見えた。
「これ、スポーツドリンクと熱さまシート。一応貼っときなさい。」
ありがとうと聞こえるか聞こえないかの声で母に言う。
それらを受け取りながら母を見上げれば、心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
「あんまり無理しちゃ駄目よ。もっと気楽で良いんだから。」
深いため息を溢して、母は部屋を出ていってしまった。
「…きらく…」
何を思ってそう言ったのか。
母の言葉と意図を考えようと頭を巡らせても、ズキズキ痛む頭ではもう考えることは出来なくて。
「気楽で良い…。」
母の言葉をもう一度口にして、私はそのまま何かに吸い込まれるように意識を手放したのだった。
頬を赤く染めながら、目の前の女の子は言う。
私は密かに胸を大きく鳴らしながらも、それが顔に出ないよう必死に顔を作った。
『だから協力してくれない?』
その言葉に私は笑みを溢して言った。『もちろん。』と。そう言った私に、彼女は嬉しそうに笑っていた。けれど、すぐにその笑顔は消えていく。
冷めた目で彼女は私を見つめていた。そしてゆっくりと口を開くと言った。
『裏切り者。』
冷たく鋭くなった声が、私の胸に深く突き刺さった。
痛くて苦しくて、込み上がってくる涙が溢れそうになって、必死に唇を噛み締めて堪える。
泣いてはいけない。泣いてはいけない。
だって彼女の言う通り、私は裏切り者だから。最低だから。
目の前に立っていた彼女はもういなくなっていて、辺りが暗闇に包まれていく。
私は崩れるようにしてしゃがみこんだ。
血が滲むくらいに唇を噛み締め、拳を握り締め、何度も何度も床を叩いた。
鈍い痛みを感じ始めて、口の中に鉄の味が広がり始めた頃、目の前に誰かが立っていることに気がついた。
顔を上げれば、そこには中学校の制服をみにまとった私がいた。
虚ろで、どこか遠くを見つめている。
その瞳には沢山の涙が溢れ落ちていた。
そんな私を呆然と見つめていれば、私はゆっくりと私の方へ顔を向けて言った。
『裏切り者。』
ピピピピピ…
「っ…は…はぁ…」
どこからか鳴り響く電子音が耳に突き刺さって頭に響いていく。
まるで走ったあとのようにあがっている呼吸を落ち着かせていく。
暫くして重たい体を上げ、ベッドサイドに置いてあるスマホを手にとって目覚ましを止めた。
未だにドクドク脈打つ鼓動はそのままに、ベッドから立ち上がって支度を始める。
鏡で自分の顔を見れば、唇が切れていることに気がついた。
実際に噛んでいたのか。
ふと先程の夢がまた脳内で再生されそうになって、必死に思考を止めた。
込み上がってくる涙を堪えながら私は支度を始めた。
「あんた大丈夫なの?」
下に降りて、朝ご飯はいらないと伝えようとした私に、母はそう言った。
「今日休んだら?顔色悪いし、フラフラしてるわよ?」
母のその言葉で、自分が弱っていることを理解した。そういえば頭痛もしているように思う。
そう思えばさっきよりも一層体が重く感じ始める。
「学校、電話しといてあげるから寝てなさい。どうせ今日午前中で終わりなんでしょ?」
その問い掛けにかろうじて首を縦に振ったとき、突き刺さるような痛みが頭に響いた。
「ほら、早く寝た寝た。後でスポーツドリンク枕元に置いとくからちゃんと水分取るのよ。」
母の言葉を右から左に、私は自室へと戻って部屋着に着替え直した。
不思議なもので。具合が悪いと思ってしまったらもうそんな気がして、体のあちこちが痛くなっていく。病は気からとはこういうことかと、痛む頭でぼんやりとそう考えながらベッドに潜り込む。
瞼は重たくて眠たい。
眠たいのだけれど、眠りにつくのが怖かった。
またあの夢を見る。
嫌だと心の中で叫びながら、また無意識に唇を噛み締めていた。
コンコン。控えめなノックの音で我に返って体を起こせば、ゆっくりと扉が開かれるのが見えた。
「これ、スポーツドリンクと熱さまシート。一応貼っときなさい。」
ありがとうと聞こえるか聞こえないかの声で母に言う。
それらを受け取りながら母を見上げれば、心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
「あんまり無理しちゃ駄目よ。もっと気楽で良いんだから。」
深いため息を溢して、母は部屋を出ていってしまった。
「…きらく…」
何を思ってそう言ったのか。
母の言葉と意図を考えようと頭を巡らせても、ズキズキ痛む頭ではもう考えることは出来なくて。
「気楽で良い…。」
母の言葉をもう一度口にして、私はそのまま何かに吸い込まれるように意識を手放したのだった。