制服姿の私に、母は何も言わなかった。

1年ぶり…。

3年間通い続けていた校舎を目の当たりにして、私は呆然と立ち尽くしていた。

「あれ…」

きょろきょろと辺りを見渡すが、続々と校舎の中に入っていく生徒は皆見覚えのない人ばかりだった。

これって…私大丈夫なのかな…?

急に不安が胸を押し寄せてきて、全身が熱くなっていくのを感じた。

卒業しているのに、なんで私は制服を着ているのだろう。

冷静な頭でそう思えば、もう顔を上げることが出来なくなった。

恥ずかしい。学校に入れてもらえるわけないのに。

「帰ろう…。」

小さな声でそう呟いて、引き返そうと振り返ったときだった。

「幸乃、なにしてんの?」

「っ?!」

目の前から聞こえた声に顔を上げれば、見覚えのあるその人物に目を見開く。

「おはよ…って、どうしたの?忘れ物でもした?」

目の前に立つ懐かしい彼女は、私の記憶の中にいる彼女よりも若干幼いように見えた。

新井聡美。中学校からの同級生だった彼女は、少し怪訝そうな顔でこちらを見つめながら、私と同じ制服を身に纏って立ち尽くしている。

「なん…で…。」

「は?」

目を見開く彼女の瞳を見つめながら、私は続けた。

「なんで聡美が…いるの…?」

あり得ない。
だって私達はすでにここを卒業していて、この制服を着ることなんて二度とないはずなのに。
それなのにどうして。
そこまで考えて1つの可能性が頭を過る。

もしかして本当に、過去に戻っている…?

そんなことあるはずはないのに、行き着く先はもうそれしか思い浮かばなかった。

「なに寝ぼけてんの…。」

そんな私に聡美は冷めた視線を向けると、1つ大きなため息をこぼして私の横を通り過ぎた。

「とりあえず私は教室行くから、お先。」

「待って!」

咄嗟に彼女の腕を掴みながら声を上げた。

「っ?!な、なに?!」

過去を振り返ってもそんなことをしたことがない私に、聡美はあからさまに目を見開いて驚いていた。
そんな彼女などお構い無しで、私は言葉を続けた。

「聡美って…今何歳…?」

「………。」

「………。」

「……15…でしょ…?」

長い沈黙の後、聡美は小さくそう呟いた。
そしてすぐに眉間にしわを寄せると、少し心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。

「大丈夫…?今日ちょっとおかしいんじゃない…?」

「…うん…。大丈夫…。」

パッと腕を離して、数秒彼女を見つめてから目を反らす。

「まだちょっと夢の中にいるみたい…。」

「珍しいね…。まぁ、具合が悪いなら保健室行きなよ?ちょっと顔色悪いし…。」

「うん…。」

私の様子に、聡美は心配の色を隠せずにしていたが、今度こそ私から離れて校舎へ向かって行ってしまった。そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、私は1つため息をこぼす。

「夢…だよね…。」

妙にリアルな感じが胸に引っ掛かったが、その言葉しか今のこの状況に当てはまるものは見当たらなかった。

とりあえず、教室へ行こう…。

重い足を何とか動かして、1年生の頃のクラス、4組の教室へと足を進めた。