優奈に呼ばれ、連れてこられたのは美術室だった。
扉を開ければ、そこにはずらりと絵と思わしきものが並べられていて、全て白い布が掛けられている。
そのまま、彼女は一番奥までいくと、ひとつの絵の前で歩みを止めた。
布には長月と書かれていることから、これが彼女の絵なのだと理解した。
「今まで描いてきた中で、一番うまくいったの…。」
そう言うと、彼女は布に手をかけた。そんな彼女の手元を見つめながら、私の中で緊張感が高まっていくのを感じていた。
「はい。」
ばっと音を経てて布が宙を舞っていくのが、まるでスローモーションのように思える。
ゆっくりと布が私の視界から消えていき、代わりに見えた景色に目を見開いた。
「ど、どうかな…。」
絵というものを、私は人生の中でどれだけ見たのだろうか。
それは美術の教科書だったり、たまたま飾られていたものだったり、小説の中に出てくるものだったり、漫画だったり。
綺麗な絵だなと思うことは何度もあった。
その絵を見ていると、なぜだか心が晴れやかになるようなこともあった。
私は絵を見て、そう思っていた。
けれど目の前にある絵は、私が今までに見たことのない絵だった。
炎舞。彼女に貸したあの本は、炎を纏って舞う。私の中で舞っていた炎舞は、どこまでも力強く、可憐に敵を倒していた。
彼女が描いたのは自然を纏って舞う。
自然を纏って舞う姿を、私は想像できなかった。
けれどこれを見て、ああこれが自然を纏って舞うことかと、納得した。
舞っているのは一人の青年。鮮やかな着物を身にまとい、優しい笑みを浮かべている彼は、まるで人間ではないように思えてしまう。
そんな彼の回りには、炎、水、風、雷、雪、桜、もみじ、葉や花。それらは何の違和感もなく、まるで彼と共に踊っているかのように舞っていた。
まるでアニメーションのように、この小さな紙の中でそれらが生きているように思えてしょうがなかった。
「テーマはシンプルなんだけど“舞”にした。この人は、人間っていうよりかは精霊みたいな。だからほんの少し透けて見えるように描いたの。」
彼女の言葉に、だから人間ではないように思ったのかと納得した。
「本当に…すごいね…。まるで…絵じゃないみたい…。アニメーションのような、動いてるように見える…。すごく綺麗で素敵…。」
「はは…。そう言ってもらえると嬉しい。自分で言うのもなんだけど、こんな動いているように見える絵を描いたのは初めて…。まるで自分の絵じゃないような気がしちゃう。すごく難しくて何回もやり直したけど、描いてるときは楽しかったな。」
そう言う彼女は本当に嬉しそうで、けれど目の前の絵をどこか遠い目で見つめていた。
「コンクールに出すから、緊張しちゃう。」
ふふっと笑いながら、優奈は目の前の絵に布を掛けた。
私はそれを最後まで見つめて脳裏に焼き付けた。
「素敵な絵を見せてくれて、ありがとう。きっと大丈夫だよ。」
「うん…。ありがとう。」
そう言って、彼女は優しい笑みを溢した。
けれどその笑顔に少し、ほんの少し違和感を覚えた。
美術室を出て教室へ戻る途中、私はぼんやりと彼女のことを考えた。
教室へ着く頃に丁度チャイムが鳴って、私たちはそそくさと席に着いた。
間に合ったねと笑う彼女からはもうその違和感はなくて、気のせいかとそこで考えるのをやめた。
扉を開ければ、そこにはずらりと絵と思わしきものが並べられていて、全て白い布が掛けられている。
そのまま、彼女は一番奥までいくと、ひとつの絵の前で歩みを止めた。
布には長月と書かれていることから、これが彼女の絵なのだと理解した。
「今まで描いてきた中で、一番うまくいったの…。」
そう言うと、彼女は布に手をかけた。そんな彼女の手元を見つめながら、私の中で緊張感が高まっていくのを感じていた。
「はい。」
ばっと音を経てて布が宙を舞っていくのが、まるでスローモーションのように思える。
ゆっくりと布が私の視界から消えていき、代わりに見えた景色に目を見開いた。
「ど、どうかな…。」
絵というものを、私は人生の中でどれだけ見たのだろうか。
それは美術の教科書だったり、たまたま飾られていたものだったり、小説の中に出てくるものだったり、漫画だったり。
綺麗な絵だなと思うことは何度もあった。
その絵を見ていると、なぜだか心が晴れやかになるようなこともあった。
私は絵を見て、そう思っていた。
けれど目の前にある絵は、私が今までに見たことのない絵だった。
炎舞。彼女に貸したあの本は、炎を纏って舞う。私の中で舞っていた炎舞は、どこまでも力強く、可憐に敵を倒していた。
彼女が描いたのは自然を纏って舞う。
自然を纏って舞う姿を、私は想像できなかった。
けれどこれを見て、ああこれが自然を纏って舞うことかと、納得した。
舞っているのは一人の青年。鮮やかな着物を身にまとい、優しい笑みを浮かべている彼は、まるで人間ではないように思えてしまう。
そんな彼の回りには、炎、水、風、雷、雪、桜、もみじ、葉や花。それらは何の違和感もなく、まるで彼と共に踊っているかのように舞っていた。
まるでアニメーションのように、この小さな紙の中でそれらが生きているように思えてしょうがなかった。
「テーマはシンプルなんだけど“舞”にした。この人は、人間っていうよりかは精霊みたいな。だからほんの少し透けて見えるように描いたの。」
彼女の言葉に、だから人間ではないように思ったのかと納得した。
「本当に…すごいね…。まるで…絵じゃないみたい…。アニメーションのような、動いてるように見える…。すごく綺麗で素敵…。」
「はは…。そう言ってもらえると嬉しい。自分で言うのもなんだけど、こんな動いているように見える絵を描いたのは初めて…。まるで自分の絵じゃないような気がしちゃう。すごく難しくて何回もやり直したけど、描いてるときは楽しかったな。」
そう言う彼女は本当に嬉しそうで、けれど目の前の絵をどこか遠い目で見つめていた。
「コンクールに出すから、緊張しちゃう。」
ふふっと笑いながら、優奈は目の前の絵に布を掛けた。
私はそれを最後まで見つめて脳裏に焼き付けた。
「素敵な絵を見せてくれて、ありがとう。きっと大丈夫だよ。」
「うん…。ありがとう。」
そう言って、彼女は優しい笑みを溢した。
けれどその笑顔に少し、ほんの少し違和感を覚えた。
美術室を出て教室へ戻る途中、私はぼんやりと彼女のことを考えた。
教室へ着く頃に丁度チャイムが鳴って、私たちはそそくさと席に着いた。
間に合ったねと笑う彼女からはもうその違和感はなくて、気のせいかとそこで考えるのをやめた。