「はいこれ。」
ドサッと置かれた何冊もの本に、私は目を見開いた。
チラッとその本の山を置いた張本人、田中くんに目を向ければ、彼は私と視線を交わす事なく本を見つめたまま口を開いた。
「この本は読んだら返して。夏休み明けで良いから。ま、いつでもいいけど。この3冊は要らないからやる。」
そう言って差し出された3冊の内、1冊は見覚えのある本だった。
「え、これも…いいの…?」
彼がお気に入りだと言っていた“光”という本を指差した。
「ああ。姉貴が同じの持ってて、要らないからあげるって言われたのだから。」
「そ、そうなんだ…。ありがとう…。」
と言いつつも、持って帰れるだろうかとぼんやり本の山を見つめていれば、隣の方から声が聞こえた。
「大丈夫か?それ…。持って帰れる?」
声のした方に視線を向ければ、西川くんが心配そうにこちらを目を向けていた。
「あ…悪い…。持ってき過ぎたな…。」
言いながら、田中くんは私の机にのせた本を持っていたトートバッグにまた戻していく。
入れ終えると、彼は私の方に視線を向けて口を開いた。
「お前んちどこ?運ぶわ。」
「え」
予想もしていなかった言葉に目を見開く。
そして、すぐに慌てて声を上げる。
「え、あ、いや…大丈夫だよ。運べるから。」
「そうもいかないだろ。今日荷物多いだろうし、置いてったら怒られるし。」
明日から夏休みのため、この学校は休みに入るまでに学校に置いてある教科書及び私物を一度家に持って帰るのが基本となっている。
私物はほとんどないが、私はいつも教科書は終業式の日に持って帰っていた。
なので、本プラス教科書となると確かにキツいが、田中くんにわざわざ家まで運んでもらうのは気が引けた。
「本当に…、大丈夫…。田中くんも荷物多いと思うし…家まで来てもらったらもっと大変に」
「ああ。俺昨日全部運んだから平気だよ。」
思わぬ返しに返す言葉が見つからなかった。
これは、お願いしてもいいのだろうか。
諦めがすぐに頭に浮かんで、けれどふと彼の家がどこなのかが気になった。
「田中くんの家は…どこ?」
「俺はバス乗ってあっち。2、30分で着くよ。」
そう言って彼が指差したのは私とは真逆の方向で。すぐにやっぱりやめようと声をあげる。
「私…、反対だから…。ごめんなさい…。ありがとう…。自分で運ぶ。」
「え、いやだいじょ」
「俺運ぼうか?」
田中くんの言葉を遮るように入ってきたのは西川くんで。彼は優しい笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「なんで?お前家どこなの?」
「俺、沢村と同じ方向だよ。いつもは自転車だけど、今日はバスだから。」
そう言って彼は私に微笑んだ。
「俺も荷物ほとんど運んじゃって、教科書何冊か位だから、運ぶよ。」
「え、あ、いや」
「じゃ頼むわ。」
今度は私の言葉を遮った田中くんは、本の入ったトートバッグを持ち上げると西川くんへと差し出した。
「悪いな。よろしく。あ、本返すのはちょっとずつで良いから。」
私の方に振り返って、それだけ口にして彼は自席へ着くとすぐに本の世界へ入ってしまった。
西川くんの方を向けば、彼はトートバッグを自分の机に掛けると、こちらを見て笑った。
「放課後運ぶから。」
それだけ言うと、西川くんは私の返事など待たずに立ち上がって教室を出てしまった。
いいのだろうか…。
少しの罪悪感に浸りながら、私はまっすぐ前を向いて俯く。
まぁ…良いか…。
ため息交じりに息を吐いたところで、頭上からおはようという声が聞こえて顔をあげる。
「あ…、おはよう、優奈。」
今日は早いななんて思っていれば、彼女は持っていたバッグを机に掛けると、私の手を掴んだ。
「ちょっと…良い…?」
少し自信なさげに笑う優奈に、私は深く頷いた。
ドサッと置かれた何冊もの本に、私は目を見開いた。
チラッとその本の山を置いた張本人、田中くんに目を向ければ、彼は私と視線を交わす事なく本を見つめたまま口を開いた。
「この本は読んだら返して。夏休み明けで良いから。ま、いつでもいいけど。この3冊は要らないからやる。」
そう言って差し出された3冊の内、1冊は見覚えのある本だった。
「え、これも…いいの…?」
彼がお気に入りだと言っていた“光”という本を指差した。
「ああ。姉貴が同じの持ってて、要らないからあげるって言われたのだから。」
「そ、そうなんだ…。ありがとう…。」
と言いつつも、持って帰れるだろうかとぼんやり本の山を見つめていれば、隣の方から声が聞こえた。
「大丈夫か?それ…。持って帰れる?」
声のした方に視線を向ければ、西川くんが心配そうにこちらを目を向けていた。
「あ…悪い…。持ってき過ぎたな…。」
言いながら、田中くんは私の机にのせた本を持っていたトートバッグにまた戻していく。
入れ終えると、彼は私の方に視線を向けて口を開いた。
「お前んちどこ?運ぶわ。」
「え」
予想もしていなかった言葉に目を見開く。
そして、すぐに慌てて声を上げる。
「え、あ、いや…大丈夫だよ。運べるから。」
「そうもいかないだろ。今日荷物多いだろうし、置いてったら怒られるし。」
明日から夏休みのため、この学校は休みに入るまでに学校に置いてある教科書及び私物を一度家に持って帰るのが基本となっている。
私物はほとんどないが、私はいつも教科書は終業式の日に持って帰っていた。
なので、本プラス教科書となると確かにキツいが、田中くんにわざわざ家まで運んでもらうのは気が引けた。
「本当に…、大丈夫…。田中くんも荷物多いと思うし…家まで来てもらったらもっと大変に」
「ああ。俺昨日全部運んだから平気だよ。」
思わぬ返しに返す言葉が見つからなかった。
これは、お願いしてもいいのだろうか。
諦めがすぐに頭に浮かんで、けれどふと彼の家がどこなのかが気になった。
「田中くんの家は…どこ?」
「俺はバス乗ってあっち。2、30分で着くよ。」
そう言って彼が指差したのは私とは真逆の方向で。すぐにやっぱりやめようと声をあげる。
「私…、反対だから…。ごめんなさい…。ありがとう…。自分で運ぶ。」
「え、いやだいじょ」
「俺運ぼうか?」
田中くんの言葉を遮るように入ってきたのは西川くんで。彼は優しい笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「なんで?お前家どこなの?」
「俺、沢村と同じ方向だよ。いつもは自転車だけど、今日はバスだから。」
そう言って彼は私に微笑んだ。
「俺も荷物ほとんど運んじゃって、教科書何冊か位だから、運ぶよ。」
「え、あ、いや」
「じゃ頼むわ。」
今度は私の言葉を遮った田中くんは、本の入ったトートバッグを持ち上げると西川くんへと差し出した。
「悪いな。よろしく。あ、本返すのはちょっとずつで良いから。」
私の方に振り返って、それだけ口にして彼は自席へ着くとすぐに本の世界へ入ってしまった。
西川くんの方を向けば、彼はトートバッグを自分の机に掛けると、こちらを見て笑った。
「放課後運ぶから。」
それだけ言うと、西川くんは私の返事など待たずに立ち上がって教室を出てしまった。
いいのだろうか…。
少しの罪悪感に浸りながら、私はまっすぐ前を向いて俯く。
まぁ…良いか…。
ため息交じりに息を吐いたところで、頭上からおはようという声が聞こえて顔をあげる。
「あ…、おはよう、優奈。」
今日は早いななんて思っていれば、彼女は持っていたバッグを机に掛けると、私の手を掴んだ。
「ちょっと…良い…?」
少し自信なさげに笑う優奈に、私は深く頷いた。