蝉がうるさいくらいに鳴いていて、窓を開けるだけでは涼しさを感じることも出来なくなった7月。
周りの生徒は半袖のYシャツを着るようになっても、半袖のYシャツを持っていない私は腕捲りをしていた。
「おはよう、幸乃。今日も暑いね。」
汗をタオルで拭いながら、優奈はキラキラした笑顔を私に向けながらそう口にした。
「あ…おはよう、優奈。」
最近になってようやく慣れてきた彼女の名前を口にして、ほんの少し笑みをこぼした。
少しずつ、本当に少しずつ顔を上げられるようになって、声を出せるようになって、最近は彼女に対して緊張しなくなった。
「あ、そうそう!幸乃聞いて!もう少しで絵が完成しそうなの!」
彼女もまた、私に対して心を許してくれてるように思う。
「そうなんだ。」
あの隈が凄かった時に比べ、彼女の顔色は大分良くなった。
楽しそうに絵のことを語る彼女は、本当に絵が好きなのだと悟った。
「あ!今日ね…彼と会うことになったの。」
頬を染めながら、優奈は照れくさそうにそう言った。
「私、隈大丈夫かな…?久しぶりに会うから恥ずかしい…。」
目元を手鏡で確認しながら、大丈夫かな?と溢す彼女に大丈夫だよと口にする。
優奈は、中学の頃から付き合っている彼氏がいると言っていた。
『優しくて、誠実で、まっすぐな人なんだ。』
幸せそうにそう口にした彼女を思い出してふと心があたたかくなる。
この高校を進めたのは、その彼だと言っていた。
『一緒の高校に行きたかったけど、本当は絵の勉強がしたくて…。彼が行った高校は美術部がなかった。そしたら、彼がここを見つけてくれて。絵のことなんか何一つ知らないのに、調べて、有名な人がここにいるよって教えてくれた。私の背中を押してくれた。夢を追いかけろって。』
嬉しそうに、けれどどこか寂しそうにそう口にした彼女が凛として見えたのが、今でも脳裏に焼き付いている。
夢を追いかけるなんて、きっと私にはできない。
夢を持つことは、同時に現実と向き合わなければいけないと、どこかで聞いたような気がする。
それは本当に難しいことで、強くなければいけない。
だから、振り返らずに夢に突き進む彼女は本当に、誰よりも格好いい人だと思った。
もちろん、彼女を支える彼もまた。
彼女が私に、その彼のことを打ち明けてくれた時を思い出して、何となく心が熱くなっていくのを感じた。
「羨ましい…。」
「え?」
不意に出てしまった言葉に、目の前の優奈もそうだが、自分もまた目を見開いた。
私は、今何を…。
弁解しようと口を開いたところで、優奈が頬を緩ました。
「幸乃はどういう人がタイプなの?」
彼女の突然のそんな質問に、内心でどきりと胸が鳴るのを感じた。
ふと脳裏に浮かんだ嫌な記憶に蓋をして、どうだろうと曖昧に答える。
「うーん…。幸乃は…包容力のある人が良いかも。優しくて、笑顔の絶えない人とか!」
どこか楽しそうな優奈に、そうかな?と適当に相づちを打つ。
「そうだよ!一緒に悩んでくれて、乗り越えてくれる人が良いよ!」
果たしてそんな人がこの世の中にいるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていれば、HRの始まりを知らせるチャイムが鳴った。
各々が席に着き始め、彼女も前を向こうとしたところで、あ!と声を上げてまたこちらに視線を向けた。
「案外、近くにいるかもしれないね。」
「え。」
少し意味深に笑うと、優奈は前を向いてしまった。
『案外、近くにいるかもしれないね。』
彼女の言葉と共に思い出したのはあの忌まわしい記憶で、怖くなった私は目を閉じて俯いた。
羨ましい。
確かに浮かんだ彼女への思いは、決して綺麗なものではなくて、そこには妬みという感情も存在していた。
羨ましい…。私もそうやって、想い合える人を見付けたいよ。
浮かぶ記憶が、そんな感情も阻むように壁を作る。
私はずっと、このままなんだろうな。
そんなことを思いながら、そっと顔を上げて澄んだ青空を見つめた。
周りの生徒は半袖のYシャツを着るようになっても、半袖のYシャツを持っていない私は腕捲りをしていた。
「おはよう、幸乃。今日も暑いね。」
汗をタオルで拭いながら、優奈はキラキラした笑顔を私に向けながらそう口にした。
「あ…おはよう、優奈。」
最近になってようやく慣れてきた彼女の名前を口にして、ほんの少し笑みをこぼした。
少しずつ、本当に少しずつ顔を上げられるようになって、声を出せるようになって、最近は彼女に対して緊張しなくなった。
「あ、そうそう!幸乃聞いて!もう少しで絵が完成しそうなの!」
彼女もまた、私に対して心を許してくれてるように思う。
「そうなんだ。」
あの隈が凄かった時に比べ、彼女の顔色は大分良くなった。
楽しそうに絵のことを語る彼女は、本当に絵が好きなのだと悟った。
「あ!今日ね…彼と会うことになったの。」
頬を染めながら、優奈は照れくさそうにそう言った。
「私、隈大丈夫かな…?久しぶりに会うから恥ずかしい…。」
目元を手鏡で確認しながら、大丈夫かな?と溢す彼女に大丈夫だよと口にする。
優奈は、中学の頃から付き合っている彼氏がいると言っていた。
『優しくて、誠実で、まっすぐな人なんだ。』
幸せそうにそう口にした彼女を思い出してふと心があたたかくなる。
この高校を進めたのは、その彼だと言っていた。
『一緒の高校に行きたかったけど、本当は絵の勉強がしたくて…。彼が行った高校は美術部がなかった。そしたら、彼がここを見つけてくれて。絵のことなんか何一つ知らないのに、調べて、有名な人がここにいるよって教えてくれた。私の背中を押してくれた。夢を追いかけろって。』
嬉しそうに、けれどどこか寂しそうにそう口にした彼女が凛として見えたのが、今でも脳裏に焼き付いている。
夢を追いかけるなんて、きっと私にはできない。
夢を持つことは、同時に現実と向き合わなければいけないと、どこかで聞いたような気がする。
それは本当に難しいことで、強くなければいけない。
だから、振り返らずに夢に突き進む彼女は本当に、誰よりも格好いい人だと思った。
もちろん、彼女を支える彼もまた。
彼女が私に、その彼のことを打ち明けてくれた時を思い出して、何となく心が熱くなっていくのを感じた。
「羨ましい…。」
「え?」
不意に出てしまった言葉に、目の前の優奈もそうだが、自分もまた目を見開いた。
私は、今何を…。
弁解しようと口を開いたところで、優奈が頬を緩ました。
「幸乃はどういう人がタイプなの?」
彼女の突然のそんな質問に、内心でどきりと胸が鳴るのを感じた。
ふと脳裏に浮かんだ嫌な記憶に蓋をして、どうだろうと曖昧に答える。
「うーん…。幸乃は…包容力のある人が良いかも。優しくて、笑顔の絶えない人とか!」
どこか楽しそうな優奈に、そうかな?と適当に相づちを打つ。
「そうだよ!一緒に悩んでくれて、乗り越えてくれる人が良いよ!」
果たしてそんな人がこの世の中にいるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていれば、HRの始まりを知らせるチャイムが鳴った。
各々が席に着き始め、彼女も前を向こうとしたところで、あ!と声を上げてまたこちらに視線を向けた。
「案外、近くにいるかもしれないね。」
「え。」
少し意味深に笑うと、優奈は前を向いてしまった。
『案外、近くにいるかもしれないね。』
彼女の言葉と共に思い出したのはあの忌まわしい記憶で、怖くなった私は目を閉じて俯いた。
羨ましい。
確かに浮かんだ彼女への思いは、決して綺麗なものではなくて、そこには妬みという感情も存在していた。
羨ましい…。私もそうやって、想い合える人を見付けたいよ。
浮かぶ記憶が、そんな感情も阻むように壁を作る。
私はずっと、このままなんだろうな。
そんなことを思いながら、そっと顔を上げて澄んだ青空を見つめた。