「おはよ…って、大丈夫?!」

思わず声を上げた私に、長月さんは大丈夫と言って笑った。

「顔色…悪いよ…?保健室に行った方が…」

目の前の彼女は顔色が悪く、少し隈が酷くなったように思う。
ここ最近、絵のアイデアを探すためにと読み始めた私が貸した本を、彼女はずっと読んでいた。
それは家でも例外ではないようで。
読んでいたら朝だった。と聞くことが何度かあった。
それでも次の日にはきちんと睡眠をとったのか顔色は良くなっていたのだが、ここ最近は様子がおかしかった。

日に日に顔色が悪くなっているように思えて、大丈夫?と聞いても大丈夫と笑うばかりで。
休み時間になると本とにらめっこをしていて、心配になって話し掛けても反応しないことが多くなった。

そして今日。明らかに昨日よりも顔色が悪い彼女に私は立ち上がった。
荷物を片付ける彼女の腕を掴む。

「え…と、沢村さん?」

「保健室、行こう。」

「えっ?!ちょっ!」

無理矢理彼女の腕を引っ張り、教室の外へと連れ出す。
無言な私に、彼女は黙ってされるがままだった。

保健室へ着けば、先生が優しい笑みで迎えてくれて、けれど長月さんの姿を見るとすぐに険しい顔へと変わっていった。


「…ね、寝不足で…。」

「で?絵は描けたの?」

「少しずつですけど…。でも、あと少しで何か掴めそうで!」

「それでも一旦は休みなさい。」

先生の言葉に、長月さんはガクンと肩を落とした。

「これで倒れたら…描きたいものも描けないよ。」

小さな声で呟いた私の声に、長月さんは顔を上げると目を見開いて私を見上げた。

「絵を描きたくて、好きだからこの学校に来たのに、その絵で体壊してたら…駄目だよ…。絵が描きたいなら、自分の体万全にしなきゃ…。納得いくものも…描けないと思う…。」

私を見つめる長月さんの顔は見られなくて、真っ白な床を見つめながらそう言った。

暫く静寂とした空気が流れて、緊張感が高まっていく。

他人が口を出してはいけなかった。

ふと脳裏に浮かんだ言葉に、胸がドクンと嫌な音を経てて鳴った。
だんだんと指先が震え始めてきて、密かに拳を握り締めた。

「沢村さんの言う通り。とりあえず、ベッドで寝てなさい。先生には言っておくから。」

ため息をついた先生に、長月さんは静かに立ち上がると私の横を通り過ぎてベッドの方へ行ってしまった。

そんな彼女が少し怖くなって、先生に軽く会釈をしてそそくさと保健室を後にした。