「掃除行こう!」
6時間しっかり授業を終えて項垂れていた私に、長月さんはどこか嬉しそうにそう言った。
そんな彼女にうんと頷いて立ち上がる。
今日1日、休み時間の度に彼女は私に話し掛けてくれた。
大半は絵に関しての事で、今は課題が出され課題に沿って絵を描いていると言っていた。
それに対してのうまい返答が出来なくて、私はただ相槌を打つだけだった。
それでも彼女はニコニコと嬉しそうに絵の話をしてくれて、最後には必ず聞いてくれてありがとうと口にする。
そんな彼女にまた胸が熱くなって、なんとも言えない気持ちが沸き上がってくるのを感じていた。
理科室へ向かえば、理科担当の松原先生が私達を待っていた。
「よく来たな!では!昨日決めた2人組で掃除を行ってくれ!」
まるで漫画に出てくるような体育教師のように、松原先生は声が大きく、尚且つ熱そうな人だ。
そんな先生の言葉に西川くんと長月さんだけが返事をして、私達は掃除にとりかかった。
西川くんと長月さんは理科室内の掃除で、田中くんと私は理科準備室の掃除とメダカの餌やりだ。
無言のまま2人で理科準備室へ向かって、無言で作業にとりかかる。
昨日はこの沈黙が心地好いと感じていたが、なぜだか今日は気まずさがあった。
それは朝彼に挨拶をしてしまった為だろうか。今何かを話した方が良いのかと考えてしまう。
黙々と流しの掃除をしている田中くんの背中を無意識に見つめていれば、不意に彼がこちらを振り返った。
「っ!」
バチっと完全に目が合って、反らすことが出来なくなった私はただただ彼を見つめていた。
「…どした?」
「え…あ…」
話す内容も全く考えていなかった私の頭の中は真っ白で、思わず俯いてしまう。
チラッと盗み見るように田中くんを見れば、彼は手早く手を洗うと、近くにあったティッシュで手を拭いてそれをゴミ箱に捨てた。
もう一度こちらを向いた彼はどうした?と口にする。
何を話せばいいかと考えていると、ふといつも田中くんが本を読んでいることを思い出して顔をあげる。
「…いつも…なに読んでるの…?」
「え」
目を見開く彼に、私は我に返った。
わざわざ流し掃除を止めてくれた彼にする話題ではない、と。
やってしまった。
完全に頭の中が真っ白になった私は、目を反らすことなく呆然と田中くんを見つめていた。
「……最近は、あんまり面白くないやつだな…。」
「え…」
「沢村も本読んでたよな…?俺のおすすめのやつはこれなんだけど。」
そう言ってポケットからスマホを取り出すと、素早く操作してこちらに画面を向けた。
そこには“光”と書かれた本の表紙があって、思わずその画面と田中くんを交互に見つめる。
「読んだことある?タイムスリップする話なんだけど。」
「え、あ…いや…。初めて…見た…。」
「そっか。読む?明日持ってくるけど。」
淡々と告げる田中くんにあまりついていけてないが、咄嗟に頷く。
「じゃ、持ってくるわ。」
そう言うとスマホをポケットへとしまった。
「あ、俺メダカの餌やりしてくるわ。」
「あ…お願いします…。」
田中くんが出ていった理科準備室で1人、私はほうきを片手に呆然としていた。
今あった出来事を思い返して、そこでやっと彼と本の貸し借りをすることになったことを理解した。
あれ…私何読んでるかを聞いたんだけど…。でもそうか…。面白くなかったから言わなかったのか…。
でも…まさか本の貸し借りをするなんて…。
思いもよらなかった事に頭の中は混乱していた。けれども胸は熱くなっていて。
話し掛けて良かった…。
そう心の中で呟きながら、私は掃除を再開させた。
6時間しっかり授業を終えて項垂れていた私に、長月さんはどこか嬉しそうにそう言った。
そんな彼女にうんと頷いて立ち上がる。
今日1日、休み時間の度に彼女は私に話し掛けてくれた。
大半は絵に関しての事で、今は課題が出され課題に沿って絵を描いていると言っていた。
それに対してのうまい返答が出来なくて、私はただ相槌を打つだけだった。
それでも彼女はニコニコと嬉しそうに絵の話をしてくれて、最後には必ず聞いてくれてありがとうと口にする。
そんな彼女にまた胸が熱くなって、なんとも言えない気持ちが沸き上がってくるのを感じていた。
理科室へ向かえば、理科担当の松原先生が私達を待っていた。
「よく来たな!では!昨日決めた2人組で掃除を行ってくれ!」
まるで漫画に出てくるような体育教師のように、松原先生は声が大きく、尚且つ熱そうな人だ。
そんな先生の言葉に西川くんと長月さんだけが返事をして、私達は掃除にとりかかった。
西川くんと長月さんは理科室内の掃除で、田中くんと私は理科準備室の掃除とメダカの餌やりだ。
無言のまま2人で理科準備室へ向かって、無言で作業にとりかかる。
昨日はこの沈黙が心地好いと感じていたが、なぜだか今日は気まずさがあった。
それは朝彼に挨拶をしてしまった為だろうか。今何かを話した方が良いのかと考えてしまう。
黙々と流しの掃除をしている田中くんの背中を無意識に見つめていれば、不意に彼がこちらを振り返った。
「っ!」
バチっと完全に目が合って、反らすことが出来なくなった私はただただ彼を見つめていた。
「…どした?」
「え…あ…」
話す内容も全く考えていなかった私の頭の中は真っ白で、思わず俯いてしまう。
チラッと盗み見るように田中くんを見れば、彼は手早く手を洗うと、近くにあったティッシュで手を拭いてそれをゴミ箱に捨てた。
もう一度こちらを向いた彼はどうした?と口にする。
何を話せばいいかと考えていると、ふといつも田中くんが本を読んでいることを思い出して顔をあげる。
「…いつも…なに読んでるの…?」
「え」
目を見開く彼に、私は我に返った。
わざわざ流し掃除を止めてくれた彼にする話題ではない、と。
やってしまった。
完全に頭の中が真っ白になった私は、目を反らすことなく呆然と田中くんを見つめていた。
「……最近は、あんまり面白くないやつだな…。」
「え…」
「沢村も本読んでたよな…?俺のおすすめのやつはこれなんだけど。」
そう言ってポケットからスマホを取り出すと、素早く操作してこちらに画面を向けた。
そこには“光”と書かれた本の表紙があって、思わずその画面と田中くんを交互に見つめる。
「読んだことある?タイムスリップする話なんだけど。」
「え、あ…いや…。初めて…見た…。」
「そっか。読む?明日持ってくるけど。」
淡々と告げる田中くんにあまりついていけてないが、咄嗟に頷く。
「じゃ、持ってくるわ。」
そう言うとスマホをポケットへとしまった。
「あ、俺メダカの餌やりしてくるわ。」
「あ…お願いします…。」
田中くんが出ていった理科準備室で1人、私はほうきを片手に呆然としていた。
今あった出来事を思い返して、そこでやっと彼と本の貸し借りをすることになったことを理解した。
あれ…私何読んでるかを聞いたんだけど…。でもそうか…。面白くなかったから言わなかったのか…。
でも…まさか本の貸し借りをするなんて…。
思いもよらなかった事に頭の中は混乱していた。けれども胸は熱くなっていて。
話し掛けて良かった…。
そう心の中で呟きながら、私は掃除を再開させた。