次の日。サチの言う通り私は一人暮らしの家ではなく、高校まで住んでいた家の自室で目を覚ました。
あの頃のようにご飯を食べ、家を出てバスに乗って学校へ向かった。
教室へ行けば、まだ早い時間だからか人は疎らだった。
自席へ着いて、何をするわけでもなく机に突っ伏して目を閉じた。
思い浮かんだのは昨日のサチだった。
変われと、彼女は言っていた。
きっとそれが、私が過去に戻った理由。
変わらなければいけないと思った。
でも、私には変わる術なんて分からない。
今何をしなければいけないのか、何をするべきなのか。考えても考えても分からなかった。
結局何も出来ない。何もやらない。
少しずつざわめき始めた騒音をぼんやりと聞いていれば、色々な話が私の耳に入ってきた。
昨日のテレビ番組が。
このゲームが面白い。
彼氏と喧嘩した。
その中でただの日常の会話、「おはよう」という言葉が飛び交っているのが妙に耳に残った。
おはようなんて、本当に何でもない日常の会話。でも、私はこれすらも出来ない。
『一辺に全部変えなくたって良いんだよ。ゆっくりでいい。少しずつでいい。』
ゆっくり…。少しずつで…。
不意に浮かんだサチの言葉に、弾かれたように顔を上げれば、丁度席に着こうとしていた田中くんと目が合って固まった。
呆然と彼を見つめる私と同じように、田中くんもまた動きを止めてこちらを見つめていた。
「…おは…よう…。」
思わず口にしていた言葉に、私もそうだが目の前にいた田中くんも驚いていた。
じわじわと顔が熱くなっていくのを感じて咄嗟に俯く。
ドキンドキンと脈打つ胸の鼓動はあまりにも大きくて。全身に一気に血が巡っていくのを感じていた。
「…おはよ…。」
「っ…。」
ゆっくりと顔を上げると、田中くんは少し照れくさそうに頭を掻いていた。
そんな彼と視線が交わることはもうなくて、彼はすぐに自席についてこちらに背を向けた。
じんわりと胸が熱くなっていくのが分かった。
嬉しい。
自然と自分の口角が上がっていることに気が付いて咄嗟に唇を噛み締める。
その時。
「沢村、おはよ。」
「!」
横を見れば、優しい笑みを浮かべた西川くんが立っていて、彼はすぐに心配そうな眼差しを私に向けると、体調大丈夫?と口にした。
なんのことかと記憶を巡らせて、そういえばと昨日の帰りを思い出す。
「あ、おはよう…。大丈夫だよ…。心配してくれてありがとう…。」
小さな声でそう呟けば、西川くんは嬉しそうに笑って、良かったと声を漏らした。
その笑顔と言葉に、密かに自分の胸が高鳴るのを感じた。
本当に優しい人…。
記憶の中で何度も話し掛けられたことは覚えているが、彼の顔はあまり覚えていなかったなと思う。
あまり人の顔を見ていなかった。
塞ぎ込んでいたことにまた反省をして、彼にまたありがとうと口にして目を反らした。
暫くして長月さんが教室に入ってきたのを確認して、緊張しながらも彼女に、おはようと声を掛けた。
優しく笑う彼女は同じようにおはようと返してくれて。
けれどそんな彼女の目の下にうっすらと隈があることに気が付いた。
なんだか隈があるのが意外で、少しだけ心配になったけれど、それを口にすることは出来ずにそっと目を反らした。
あの頃のようにご飯を食べ、家を出てバスに乗って学校へ向かった。
教室へ行けば、まだ早い時間だからか人は疎らだった。
自席へ着いて、何をするわけでもなく机に突っ伏して目を閉じた。
思い浮かんだのは昨日のサチだった。
変われと、彼女は言っていた。
きっとそれが、私が過去に戻った理由。
変わらなければいけないと思った。
でも、私には変わる術なんて分からない。
今何をしなければいけないのか、何をするべきなのか。考えても考えても分からなかった。
結局何も出来ない。何もやらない。
少しずつざわめき始めた騒音をぼんやりと聞いていれば、色々な話が私の耳に入ってきた。
昨日のテレビ番組が。
このゲームが面白い。
彼氏と喧嘩した。
その中でただの日常の会話、「おはよう」という言葉が飛び交っているのが妙に耳に残った。
おはようなんて、本当に何でもない日常の会話。でも、私はこれすらも出来ない。
『一辺に全部変えなくたって良いんだよ。ゆっくりでいい。少しずつでいい。』
ゆっくり…。少しずつで…。
不意に浮かんだサチの言葉に、弾かれたように顔を上げれば、丁度席に着こうとしていた田中くんと目が合って固まった。
呆然と彼を見つめる私と同じように、田中くんもまた動きを止めてこちらを見つめていた。
「…おは…よう…。」
思わず口にしていた言葉に、私もそうだが目の前にいた田中くんも驚いていた。
じわじわと顔が熱くなっていくのを感じて咄嗟に俯く。
ドキンドキンと脈打つ胸の鼓動はあまりにも大きくて。全身に一気に血が巡っていくのを感じていた。
「…おはよ…。」
「っ…。」
ゆっくりと顔を上げると、田中くんは少し照れくさそうに頭を掻いていた。
そんな彼と視線が交わることはもうなくて、彼はすぐに自席についてこちらに背を向けた。
じんわりと胸が熱くなっていくのが分かった。
嬉しい。
自然と自分の口角が上がっていることに気が付いて咄嗟に唇を噛み締める。
その時。
「沢村、おはよ。」
「!」
横を見れば、優しい笑みを浮かべた西川くんが立っていて、彼はすぐに心配そうな眼差しを私に向けると、体調大丈夫?と口にした。
なんのことかと記憶を巡らせて、そういえばと昨日の帰りを思い出す。
「あ、おはよう…。大丈夫だよ…。心配してくれてありがとう…。」
小さな声でそう呟けば、西川くんは嬉しそうに笑って、良かったと声を漏らした。
その笑顔と言葉に、密かに自分の胸が高鳴るのを感じた。
本当に優しい人…。
記憶の中で何度も話し掛けられたことは覚えているが、彼の顔はあまり覚えていなかったなと思う。
あまり人の顔を見ていなかった。
塞ぎ込んでいたことにまた反省をして、彼にまたありがとうと口にして目を反らした。
暫くして長月さんが教室に入ってきたのを確認して、緊張しながらも彼女に、おはようと声を掛けた。
優しく笑う彼女は同じようにおはようと返してくれて。
けれどそんな彼女の目の下にうっすらと隈があることに気が付いた。
なんだか隈があるのが意外で、少しだけ心配になったけれど、それを口にすることは出来ずにそっと目を反らした。