6時間目が終わり、掃除とHRを終えた私は机に項垂れていた。

今日1日、本当に長かった。

眠った気がしない私にとって、今日は仕事をするところから始まっている。
仕事以外の話をすることなく、黙々と仕事を終え帰宅して、変な女の子に過去に飛ばされ、学校へ行って1日過ごして今に至る。
体力的にと言うよりかは精神的に疲れていた。

瞳を閉じれば、今日会話をした人達の顔が浮かんだ。

久し振りに、人と普通の会話をしたな。

ぼんやりと今日あったことを思い出していれば、同時に自分の失態もよみがえり始める。
人とまともな会話をしていない私は、本当にうまく話せていなかっただろう。
声も小さくて。目も合わせられなくて俯いて。何をやっているんだろうと思う。

「最悪…。」

早く帰ろう。

独りぼっちが嫌なくせに1人を好む私にはこの空間は苦痛で。それは慣れていないせいもあるのだろう。

顔をあげたところで、隣から沢村と私を呼ぶ声が聞こえてそちらに顔を向ける。

「あ…」

そこには西川くんがいて、彼は心配そうな顔でこちらを見つめていた。
西川くんのそんな瞳を見ていられなくなって、すぐに目を反らして俯く。

完全に嫌な態度を取った私に、西川くんは小さな声で、あ…と声を漏らした。

やってしまったと、後悔が胸の中を支配していく。
けれどそれを弁解する言葉も出なければ、彼の方を見る勇気も出なかった。

暫く沈黙が続いた後、西川くんが立ち上がるのが分かった。
行ってしまうと思ったのも束の間。床を見つめていた私の視界に、急に西川くんの顔が入ってきた。

「っ?!」

思わず顔を上げてしゃがみこんでいる彼を見据えるが、西川くんは本当に心配そうな顔で私を見つめていた。

「具合、悪いのか?」

「え…」

呟かれた言葉に目を見開いた。

「さっきから机に突っ伏してるし、顔色もあんまり良くないみたいだけど大丈夫?家まで送ろうか?」

「え、あ…。」

心配してくれていたという事に胸が熱くなったのと、なんて返せば良いのかが分からずにうまく言葉が紡げずにいた。

そんな私に、西川くんはもう一度大丈夫か?と口にする。

「だ、大丈夫…。あ…ちょっと…疲れてる…だけだから…。」

「でも」

これ以上の会話を続けることが出来なくて咄嗟に立ち上がる。

「ほんとに…大丈夫…。」

そう言って机にかかっていた鞄を手にする。
彼の横をそのまま通り過ぎようとしたけれど、ふと我に返る。

このままじゃ感じが悪いと思われてしまう。

立ち上がった西川くんをそっと見上げて、聞こえるか聞こえないかの声でありがとうと口にした。
ゆっくりと目を見開いた西川くんをもう見ていられなくなって目を反らす。

「じゃ、じゃあ…また明日…。」

それだけ言って、足早に彼の横を通りすぎた。

「え!あ!気を付けてな!また明日!」

彼の慌てたような声には振り返らず、私はそのまま教室を後にした。