「え?」

玄関を開け、足音を立てないようにそっと廊下を進み、開けたリビングのドア。
いつもなら真っ暗なはずのリビングに、なぜか電気がついていた。

「おかえり」

「ただ、いま」

ソファーに座った状態で声をかけられ、萌夏は固まってしまった。

「ずいぶん遅いね」
「うん」

時刻は午前2時。
いつもより1時間ほど遅い。

「いつもこんなに遅いの?」
「いや、まあ」

いつもは遥が眠った後に帰るから、こうやって顔を合わせることもなかった。

「どうしたの?こんな時間に起きてるなんて」
すでにパジャマ姿の遥が起きていることが不思議に思えて、話の矛先を変えてみる。

「雪丸が、急ぎでもない用事で電話してくるから目が覚めたんだ」
「へえー」

それはきっと、わざとだよね。
この時間に帰る萌夏と遥を鉢合わせさせようとしたんだ。

「ずいぶんきれいに化粧するんだな」
「え?」
「普段はほとんど化粧をしないだろ?」
「うん、まあ」

「それに、酒・・・飲んでる?」
「ぅうん」

遥は萌夏を睨んだまま、口を閉じてしまった。

もー、ダメ。
完全にばれている。