バイトを終え、マンションに向かう萌夏。

いつもより飲みすぎてしまって、酔い覚ましのつもりで少し手前でタクシーを降りた。

「どうしよう」
誰に言うともなくつぶやいた言葉。

あの時、間違いなく雪丸さんと目が合った。
隣に座っていた遥は電話中で萌夏を見ていなかったけれど、雪丸さんは気づいたはず。

はあぁー。
大きなため息が出てしまった。

雪丸さんのことだから、遥に言わないはずがない。
そして、遥はきっと怒るだろう。
「そんな女は置いておけない」と言われて、マンションを追い出されるに違いない。
あんなに親切にしてもらったのに、嘘をつき遥をだましていた萌夏を許してくれる訳がない。

「困ったなあ」

重い足を引きずりながら、いつもより少し遅い時間にマンションへとたどり着いた萌夏。
このまま逃げ出したい気持ちを抑えて、マンションのドアを開けた。