「また来るよ」

「ありがとうございました」
ママと並んでタクシーに乗り込むお客さんをお見送り。

都内の繁華街、それも高級店の並ぶ地域だけあって周囲にはスーツを着たビジネスマンと黒塗りの車がひしめき合っている。
タクシーが見えなくなるまで見送りながら、萌夏はこの場にいる自分が場違いな気がして仕方がない。

「すっかりお気に入りね」

え?

「部長さんよ。吹雪ちゃんがかわいくて仕方ないようじゃないの」
「そんなこと」

「あなた、この仕事向いているのかもね」
「そうでしょうか?」

自分ではそうは思えないけれど。

「急がなくてもいいから、一度本気で考えてみなさい」
「はい」

ダークカラーのスーツを着た男性たちと、きれいな色のドレスや着物を着た女性。
にぎやかで、華やかな街。
ここに居場所を見つけることなんて、できるんだろうか。

あっ。

考え事をしながら周囲を見回していた萌夏は、目の前に止まった車の中の人物と目が合った。

嘘。

それは萌夏のよく知る人物。
毎朝会っている人。
そして、絶対にこのバイトを知られたくない人。

クルリと方向転換し、店の中に逃げ込む萌夏。

マズイ、絶対にマズイ。
あの人は・・・