「吹雪はいい子だな。うちの娘も吹雪ぐらい可愛げがあればいいのに」
かなりお酒の入ったお客さんは、萌夏と同じ年頃だという娘さんのことも愚痴りだす。

「そんなことありませんよ」

仕事だから、お客さんだから言えることで、家族ではそうもいかない。
萌夏だって、家では素直でかわいい態度ばかり取っているわけではない。

「なあ、この後飲みに行こうか?」
「え?」

お客さんからのアフターのお誘い。
本当なら行くべきなんだろうけれど、

「吹雪になら何でもご馳走してやるぞ」
「いや、でも・・・」

「駄目なのか?」
「すみません」

バイトを始めるとき、お店の外でのお付き合いはすべてお断りするとママと約束した。
いつ辞めるかわからないアルバイトである以上それがけじめに思えたし、何よりもどこかで知り合いに会うことが怖かった。

「仕方ないなあ、また来るよ」
席を立ってしまったお客さん。

「すみません」
萌夏は頭を下げ、店の外まで送りに出た。