放課後になって矢部君が屋上に行っていないか確認をするために屋上に向かって廊下を歩いていた。
屋上のドアを開けても矢部君の姿はなく、心なしか夕日も曇って見える。
(今日も矢部君さんと話すことができませんでした。避けられてるのかな?)
屋上から教室に戻っているときにそのことしか、考えられなかった。
教室に着くとドアが開いており、誰かいると気まずいので除くように確認をする。
そこには矢部君が座っていた。
夕日がきれいに差し込んで教室に一人でいた。
(今日は部活、ないのかな?)
誰もいないなら話せるはずだが、今の私には見ていることしかできない。
だけど視線で気づかれると気まずいので、下を向いている。
もし矢場が私のことが嫌で避けているなら、話しかけられることも嫌だろう。
それをわかっていながら話しかける勇気は出ない。
でも矢部君と話すことは楽しいから、今話せるなら話したいと思っている。
私は今できることはともう一度、矢部君のほうを見た。
なんだか夕日に照らされている矢部君の顔は見えていないがきれいに思えたので、私は携帯を構えていた。
シャッター音のことを忘れていた私はシャッターを押した。
私は焦っての場を離れようとしたが、それよりも先に矢部君が私に気づいた。
「大松さん?」
名前を呼ばれているのに逃げるのは避けることと一緒になると思った私は、教室に入ることにした。
教室に入ると矢部君がいつも女子に向けいる顔ではなく、心から笑ったような顔になった。
「はい。何かありました?」
さっきのことを無かったかのようにふるまうことにした。
だけどはっきり聞こえていたので私は心の中で聞かなかったことにしてほしいと思っている。
「最近全然話せなかったね。今から時間あるかな?」
避けられると思っていたので、時間などの話をされると思っていなかったので驚いた。
だが嬉しさが咲來に出て一言目が大声になる。
「ありますよ。何か話すことでもあるんです? 私のことを避けていたので嫌われたのかと思っていたのですが」
笑い話のように私は言った。
だけど矢部君はその話を聞いていると顔がどんどん白くなっている。
「違おうよ。確かに大松さんのことは避けていたけど嫌いになったわけではないよ」
焦って訂正するのでいつも見れない矢部君が、見れることがなんだかおもしろく思えてきた。
矢部君は何かを思い出したのか話はし始めた。
「そうだ、時間があるなら話しない? 一週間、話せなかったから。いやかな?」
矢部君は捨てられた犬のような顔に見えるので断ることがかわいそうに思えている。
心なしか耳まで見えてきた。
私は矢部君の前の席に座って、矢部君のほうを見た。
「君が俺と関わるとケガすることが分かったんだ。だから君に近づかないようにしてたんだ」
矢部君がそんなコトンなこと考えていたなんて。
私は矢部君のことを何も知らないのだと実感している。
話しかしていないのに、何が分かるのだと思い始めた。
でも何か一言は欲しかったと言いたいが、言って嫌われたくないので心の中で止めた。
「本当はこのことを伝えればよかったのに、その前に避けちゃったから」
そういうことを言われると私は何も言えなくなる。
自分のために考えていてくれたことなのに、文句なんて言えるわけない。
でも何も言わないと心臓に悪い。
「ごめんね。これから何かするときは話せなくても、メールで送るね」
「そうしてください」
それしか言葉が出てこなかった。
少し冷たい太陽になったかもしれないけど、今回のことで矢部君と話せなくなるのがどんだけ悲しかったのか気づかされた。
「そういえばさっき何か写真撮ってたみたいだけど、何を取ったの?」
その話にならなかったので、矢部君がスルーしてくれたのかと安心していたがそうではなかった。
今からでもなかったことにできないかと思っても、私一人しかいないので人のせいにもできない。
「怒りませんか?」
見せることはよかったけど、勝手に矢部君を取っていたことで怒られるのは嫌だった。
自分がしたことなので、仕方がないことなのはわかっているが、怒られたくない。
「怒らないよ。それに君が見ている世界を見てみたいんだ」
私の世界が見たいっていう人なんているんだ。
私が見ている世界なんて、ほかの人に比べたら何もない世界なのに。
スマホをポケットから出して、撮った写真を見せた。
「これなんですけど」
盗撮だと思われないように私はその時の夕日がきれいだったかを話した。
これで怒られても何も言えない。
本人の許可なくとると嫌がる人もいるって知っているのに、私は気づいたら撮っている。
何の言い訳にも習いが、悪い気分にするから「やめないと」とは思っている。
「こんなきれいな写真を撮ってたんだ。この陰って俺?」
きれいに夕日が差し込んだことによって、顔がはっきり移っていないのが救いだった。
それでも嫌がられるのではと考えてしまう。
「そうです。勝手に取ってしまって、すみません」
素直に私は謝った。
文句も聞くつもりで入るが謝って怒られないならどんだけでも謝るつもりだ。
土下座をしろと言うなら、してもいいともう。
「いいよ。それにこんなにきれいに撮ってもらえるなんて嬉しいよ!」
予想していた答えと反対の言葉が返ってきたので、私は驚いて何も言えなかった。
だけど二人でいるのに沈黙になるのは避けたいので、頑張って言葉を箪笥の奥から出すように出してきた。
「そんなことないです。でも、ありがとうございます」
罪悪感もあるがほめてもらえたことが素直にうれし。
自分が何かすれば、否定的な言葉や批判なのどが来るのでほめてもらうことは、死んだ母以外言ってくれなかった。
泣きそうになるが泣かないように耐えた。
「大松さんってそんなことするんだ! もっと大松さんのいろんな姿が見たいなぁ」
矢部君は渡すが撮った写真で笑顔になっている。
その姿に私の顔は暑くなる。
私は矢部君に褒められることがうれしくい。
この人になら、人前で話せ中区なった理由を言っても、友達でいて得くれると思ったので、話そうかなと思い始めた。
「どうしたの? 何でも聞くよ」
矢部君は私がしたいと思ったことにすぐに気づいてくれた。
聞いてくれるなら話しやすいけど、でもこんな話聞きたい人なんていないよね?
「私が人前で話せなくなった理由を聞いてくれますか?」
ここで聞きたくないと言われれば、私は気まずくなる。
だけど、矢部君さんは優しいから私の話を聞いてくれると思う。
「大松さんが話してくれるなら」
断られなくてよかった。
*
私は小学生のころ好きな人がいた。
その人に告白しようとしても勇気を出すことができず過ごしていた。
咲來に相談すると「ここで勇気出さなきゃ、何も変わらないよ」といられ、放課後にその子の家に行き、告白することにしたのです。
次の日。
学校に行くが放課後に告白しに行けるのかと心配で仕方がなかった。
休み時間のたびに咲來も心配して教室に来てくれた。
「大丈夫? 今からそんなのだと告白の時、噛みそうだね」
咲來に図星を疲れた私は何も言えなかった。
「放課後にはどうにかなっているよ。多分」
本当に放課後までにどうにかなっていないと、ちゃんと気持ち伝えられないよ。
さすがに咲來に隣にいてもらうわけにか行かないから、自分で頑張らないと。
放課後になった。
「ここからはあんた一人で行きなよ!」
咲來が途中まで私についてきてくれた。
心の準備がなかなかできなかったので、相手は先に帰ってしまったのだ。
なので今その人の家の前に来ている。
(頑張らないと。初めての感情だけど、咲來にも応援してもらっているのだから。ここで頑張らないと)
そんなことを考えながら私は呼び鈴を鳴らした。
出てきたのはきれいなお姉さんだった。
「勇気の知り合いの子ね。ちょっと待って今呼んでくるから」
そういうときれいなお姉さんは家の中に入っていった。
しばらくすると、勇気が出てきた。
その人を前にすると言葉がすぐに出てこない。
「俺に何か用? それに俺の家知っていたんだな」
本人を前にすると考えていた言葉も声にならなかった。
それでも黙っているのもおかしいから私は「何か話さないと」と焦っていた。
「今日は勇気君に伝えたいことがあってきたんだ」
はじめに言える最大の言葉だった。
だけど本当に伝えたい言葉は出てこなかった。
「その話長い? 長いなら家に入る?」
家に入れてもらったら緊張しすぎて倒れちゃうよ。
だけどこれを逃すと家に入れてもらえないかもしれない。
頭の中ではいろいろ考えていたが、出てきた言葉は反対の言葉だった。
「大丈夫。すぐに終わるから」
心の準備がまだ終わっていないのに何を言っているんだろう?
だけど、なんでもいいから言葉が出たのはよかった。
それでもその先の言葉は簡単に出ない。
勇気は早く家に入りたいという顔をしている。
このまま言わないわけで終わると印象も悪くなる。
心の準備ができないまま伝えたい言葉を口に出した。
「私、勇気君のことが好きなの」
いきなりの言葉に勇気は何も言わなかった。
私も何を話せばいいのかわからず黙ってしまった。
この沈黙がすごく怖い。
断られるならいいけど、ほかのこと言われたらどうしよう?
でも、もう行っちゃったからここから逃げるわけにもいかない。
「そっか。ありがとう。そのことを伝えに来てくれたんだよね?」
笑顔で言われて心がどきどきした。
伝えたいことも伝えたので、その場から逃げ出したので帰ることにした。
「うん。言えたから私帰るね。バイバイ」
「また明日ね!」
そこから駆け足で離れた。
次の日。
私はあまりにも恥ずかしくて学校に行く時間がいつもより遅くなった。
学校に着くと私を見てクスクス笑う声が聞こえてきた。
笑い声を気にしながら私は席に着いた。
(私何かしたかな? 昨日は心の準備ばっかりしていたから、変なことしても気づかなかったのか? でもそれなら、咲來が言ってくれるし……)
自分の行動を振り返っても変な行動だと思いつかず、悩んでいると咲來が駆け寄ってきた。
「咲來、おはよう。急いでるみたいだけど何かあった?」
今日は急ぐこともないのに、なんで咲來は急いでいるのだろうと思っていた。
走りたくないので、咲來に一人で行ってもらおうかと考えていると、咲來が私の腕をつかんできた。
「歩楓、あんた大変なことになってるよ」
私は何かしたのか思いつくことがない。
学校では普通にしているし、大体先の隣にいるので変なことしているとその場で治すことが多い。
だけど、学校に着くなり私はクスクスと笑われているのは感じれる。
「もしかしてさっきから笑われているのと何か関係あるのかな?」
自分のことではなかったら恥ずかしいので、咲來に聞けなかったが関係ありそうだったので聞いた。
「それのこと。あんた昨日、勇気に告白したでしょ? そのことが学年の全員が知っているのよ。何かしたの?」
なんでそんなことになっているのか私にはわからなかった。
心当たりもない。
勇気君がそんなことする人と思っていない。
「なにもしてないけど。なんでバレたんだろう?」
自分が言っていないなら、勇気しかいないはず。
もしかしたら、私が気付いていないだけで、どこかに見ていた人がいたのかな?
「少し心当たりがあるから、聞いてみるけど大丈夫?」
咲來が誰に聞いたのかは知らない。
そのためか昼休みに咲來とは会えなかった。
放課後、咲來は原因をわかったみたいだったが、なぜか言いにくそうにしている。
「笑われている理由わかったみたいだけど、何か言いにくいの?」
咲來は私と目を合わせてくれない。
そんなに私に居にくいことなのかな?
「そうだね。知らなくてもいいことだと思うけど、歩楓は知りたい?」
咲來はあまり言いたくないのか、でも私が気になっているのが態度に出ているから、伝えようとはしてくれている。
「そうだね。実質どっちでもいいかなっても思うけど、陰で言われていることに傷ついてないとは言えないかな」
ここで私が気にしていないよ」って言ったら咲來はどう思ったかな?
慣れているなんて言ったら、怒られてた気もするけど。
本当に木津ついていないけど。
「歩楓がこれ以上、傷つくなら言いたくない」
咲來は心配の顔を向けてくるが、この時の私は今日一日で何が起こっているのかを理解するのに時間がかかっていた。
家に帰ると、お母さんが玄関で倒れていた。
「お母さん⁉」
私は倒れているお母さんに何をすればいいのかわからなくて、固まってしまった。
だけどお母さんが私の存在に気づき、降り縛った声で「救急や読んでくれない?」と言ったので玄関にあった電話で110番した。
救急車を呼んだあと私は父親にも連絡したけど、電話には出てくれなかった。
母についていき病院の人にも連絡を取ってもらったが、父親が出ることはなかった。
「お母さん。お父さんと連絡つかないのだけど、どうしよう」
お母さんは起き上がろうとしていたけど、私が止めたので横になったままで話し始めた。
「歩楓が悲しむかもしれないけど、お父さんは多分ほかの女の人と一緒にいると思うのだけど。こんなこと言うものではないものね。……私は多分もうそんなに長くないわ」
母親が手術室にいるときに先生に呼び出され、言われた言葉だった。本当は父親がこの場にいるなら私の代わりに聞いていたけど、ここには父親がいなかった。
「お母さん。元気になるよね? 私を置いていかないよね?」
その時の私はお母さんを困らしていたと思う。
だけど母親がどこかに行く気がしていた。
昔の父親は好きだったけど今のあの人は好きではなかった。
「あんたが大きくなるまでは一緒にいるよ。歩楓のウエディング姿を見るまではいなくならないよ」
母親は笑顔でそういった後、面会時間の終了を看護師が知らせに来たので帰ることにした。
家に帰っても父親は帰っておらず、私は帰りにコンビニで買った弁当を一人で食べていた。
(あの人はお母さんの大変な時に何しているんだろう?)
この時から私は父親のことをあの人呼ばわりをしていた。
毎日、放課後には病院に向かい面会時間のギリギリまでお母さんと話していた。
お母さんと話すのはどんな時間よりも楽しくて、学校が毎日あるたび「早く放課後にならないか」と楽しみにしていた。
そのころから私はあの人に会う回数が少なくなっていた。
月曜日に一週間分のお金が机の上に置いてある。
お金だけが雑に置かれている。
まれに金曜日に帰ってきたと思えば、女を連れこんでいて「出て行け」と追い出される。
その間の私は公園で寒い中、病院の面会時間になるまで待っている。
そのころからお母さんは弱っていた。
「お母さん今日も会いに来たよ!」
笑顔で迎えてくれたけどお母さんはやつれていた。
「いつも土曜日は早いけど、何かあるの?」
お母さんにはあの人のことを話していない。
自分の病気のことでも大変なのに、あの人のことを考えることで病気が悪化してしまうかもしれない。
だから話すことなんてできない。
「何もないよ。学校の時間にどうしても目が覚めるから来てるんだ」
私がそうごまかすとお母さんは踏み込んでこない。
それから毎日通っているけど起きている時間も少なくなってきた。
私が行くときには寝ていることが多かった。
お母さんが寝たきりになって一週間がたった。
放課後、病院に行くとお母さんは病室でいつものように眠っていたが、様子がいつもと違った。
「お母さん?」
嫌な予感がした私はナースコールをした。
ナースが先生を読んで来るときには、お母さんはもうなくなっていた。
私はお母さんの手を握りながら、泣き続けました。
泣いている間も父親が来ることはなく、親戚のおじさんが来るまでだれ一人来ることはなかった。
それからお葬式の話はお母さんが残していた遺言書通りに行われ、私をどうするかの話になった。
「歩楓ちゃんはこの先どうしたい? あの家にまだ痛い? それとも何かほかに考えているかい?」
病院に来たおじさんがやさしく問いかけてくれた。
私はまだ母を亡くした悲しみから抜けていなかったが、あの人といることだけは何があっても嫌だった。
「私あの家にいるのだけは、あの人の家族でいるのは嫌です」
そういうとあの人の家族のおじいちゃんが立ち上がった。
「お前は自分の父親に向かって何を言い出すんだ。今まで生きてきたのは自分の父親のおかげだろうが」
私はおじいちゃんに怒鳴られた。
おじいちゃんの横にいたおばあちゃんは泣いている。
おじいちゃんがあの人のことをどう思っているかは知らないけど、私はほかに女を作る人って認識しているから誰に何を言われても考えが合わることがないと思う。
「私はお母さんのお見舞いにもお葬式にも来ないあの人のところなんて行きたくないで。おじいちゃんがあの人をどう思っているかは知りませんが、私の中の印象は最悪なので意見が変わることなんてないです」
そういうとおじいちゃんは何も言い返せなかった。
私はそのあとおじさんの家に引き取られた。
だけど母親がいないことで今まで母親だけに心を開いていたので、心をふさぎようになった。
それから学校に行く回数も減ったころ、私は話すことができなくなっていた。
そのころにあの人が知らない女を連れて、おじさんの家に来た。
「いまさら何をしに来たんだ」
あの人が来たときは真夜中化だったため私は寝ていた。
「いまさら何をしに来たんだ」
おじさんの怒鳴り声で起きた。
誰か来ているのかと除こうと思い、声のもとに向かう。
お客の顔を見て戻ろうと考えていたが、あの人の顔を見た瞬間私はこけて大きな音を立ててしまった。
そこからの記憶は覚えていないがあの人のもとに引き取られることになって、別れるときにおじさんが謝っていたことは今でも覚えている。
それから私は一言も話すことなく過ごしていたが、ひさしぶりに咲來に会うと涙があふれた。
そのあとは咲來の前では話せるようになったが人前などで話すときは必ず発作が起きるようになった。
*
そして今に至る。
今はましになって一対一なら話せるようになった。
何かあれば逃げればいいと思っているからだと思っている。
「これが私が話せなくなった理由です。しょうもないでしょ?」
真剣に聞いてくれた樹は無理して笑っている私の頭を撫でた。
「無理して笑わなくていいよ。それに大事なことを話してくれてありがとう」
私は笑い話にできるぐらい大丈夫と思っていたが、樹に受け入れられたことによって涙があふれてきた。
しばらく私は泣いていた。
樹は初めのほうは戸惑っていたけど、ずっとそばにいてくれた。
その姿を見て私はこの人の隣居ずっと痛いなと思い始めた。
だけど樹の隣にいることは大変で、女子を敵に回すので今よりひどいことをされるかもしれない。
だけどこの人が隣にいてくれるならどんなことでもがんばれそうと思っている。
そんなことを考えながらいると涙が止まった。
「もう大丈夫かな? 落ち着いたなら、帰りながら話そうか?」
そういってくれる樹は優しかった。
私と樹は学校を出た。
送ってくれるのはとてもうれしかったが、家には帰りたいとは思わなかった。
普段も思っていることだが今日は特に帰りたくなかった。
あの話を樹にした唐鎌おしれないが、これ以上樹を引き留めることもできなかった。
だけど私の顔はわかりやすかったらしい。
「帰りたくないなら、コンビニによらない? それでもう少しだけ話せないかな? それも嫌なら普通に送るけど、どっちがいいかな?」
樹が私に聞いてくれた時は、手で顔を隠したが気づいてくれたことがうれしかった。
「私もコンビニよりたい」
私がそう言うと樹は嬉しそうにして、コンビニの方向へと歩き出した。
私はその姿を見て、「帰りたい」と言わなくてよかったと心の中で思っている。
それからコンビニで温かいお茶と肉まんを買った。
だけど私はお金がないので肉まんは買わなかった。
肉まんを買わない私を見て樹は何があったのか聞かれたが私は「おなかすいていないから」と言ってお金がないことを隠した。
だけどコンビニの近くの公園で話しているとき、私のおなかが空気を読まず樹に聞こえるようにおなかがなった。
「本当におなかすいてないわけじゃないんだね。よかったら俺の半分食べない?」
樹が私に半分に切った肉まんを差し出してくれた。
お金を払っていない私が「もらっていいものか?」と思い断ったが、捨て犬のような顔をしたので私は半分の肉まんを受け取ることにした。
「渡してから聞くのは変なことなんだけど、肉まん嫌いじゃなかった? 渡す前に確認すればよかったんだけど、おなかすいていることが気になって先走って。ごめん」
私のことを気にかけてくれることがうれしい。
(樹君といるとなんだか落ち着くなぁ)
そう思うと顔がだんだん熱くなったのを感じた。
「大松さん、顔赤いけど大丈夫? やっぱり外で過ごすのはよくなかったよね。今からでもどこかに入ろうか?」
自分のせいでお金を使わせてしまうのが申訳なかったし、私の財布に何かを頼めるお金もなかった。
本当のことを言って樹君に呆れられたくもない私は何も言えなく樹君の顔を見ることができなかった。
(こんな私といたいなんて思わないよね。やっぱり寄り道なんてしなきゃよかった)
私は樹といる時間がとても楽しいと思っているが、樹に迷惑をかけたいわけでもない。
どこか店に入るお金もないし、樹にお金を借りるのもなんだか申し訳なく思いと思い自分から「どこかに入ろうか」とか「今からどこかに入ろうか?」に肯定できなかった。
そんなことを考えると顔を上をあげることができなかった。
「本当に体調悪くない?」
私はこれ以上心配させるわけにはいかないと思い顔をあげた。
「体調は大丈夫です。……本当のことを言うとお金がないのでどこかに入ることができないので」
素直に言うと樹は一瞬、どんな感情をしているかは顔から読み取れなかった。
そのあと考えるそぶりをしているので私は何を考えているかわからず、私は「もう一緒に居たくない」などと言われるのではないかと怖くなっていた。
「大松さんはおごられるのはあんまり好きじゃない?」
何のための質問かわからず、すぐに答えることができなかった。
樹の一つの質問でも深く考えてしまい、私と樹の間には沈黙が続く。
私が作っているはずなのに沈黙になるとだんだん申訳なさが心の中で大きくなってその場から逃げ出したい気持ちが膨らんだ。
「私がおごってもらうほどの価値もないですし、返すのに時間がかかってしまいます」
私は自分に価値がないと思っているため、おごってもらうのが嫌いなわけではなくしてもらう価値がないのだ。
人からの自分の評価など聞いたことがないので、いつも自分の物差しで測っては価値がないと思っている。
だけど楽しい時間はそんなことを考える余裕がないの、樹君と学校で話しているときは自分が樹君と話していることを何も考えなかった。
「大松さんは自分のことが価値がないっていうんだね。だけど俺にはそんなことないと思うよ。大松さんといて楽しいと思ったり、また話したいなって思うよ。だから大松さんに価値がないとは思わない」
樹君が一定くれたことはうれしいと思った。
お母さんが死んでどこかで生きる言いがないって思っていたけど、死ぬ勇気もない。
そんな私に価値なんてないって思っていたし、いなくても誰も困らないと思う。
だけど樹君がそんな風に思ってくれる。
(もっと樹君といたな。そしていろんな場所に行きたいな)
マイナスに考えていた思考が少し上に向き、自然に顔も上がった。
「まだ自分に価値があるとは思いませんが、私に価値があると思う人がいるというのは頭に入れておきます!」
話が落ち着くと私は樹君に家まで送ってもらった。
そのあとは夕食を一人で少し食べた。
そのあともお風呂以外は部屋から出ることもなく、ドアの前で継母が「おやすみなさい」と言っていたが無視をして、私も寝ていった。
屋上のドアを開けても矢部君の姿はなく、心なしか夕日も曇って見える。
(今日も矢部君さんと話すことができませんでした。避けられてるのかな?)
屋上から教室に戻っているときにそのことしか、考えられなかった。
教室に着くとドアが開いており、誰かいると気まずいので除くように確認をする。
そこには矢部君が座っていた。
夕日がきれいに差し込んで教室に一人でいた。
(今日は部活、ないのかな?)
誰もいないなら話せるはずだが、今の私には見ていることしかできない。
だけど視線で気づかれると気まずいので、下を向いている。
もし矢場が私のことが嫌で避けているなら、話しかけられることも嫌だろう。
それをわかっていながら話しかける勇気は出ない。
でも矢部君と話すことは楽しいから、今話せるなら話したいと思っている。
私は今できることはともう一度、矢部君のほうを見た。
なんだか夕日に照らされている矢部君の顔は見えていないがきれいに思えたので、私は携帯を構えていた。
シャッター音のことを忘れていた私はシャッターを押した。
私は焦っての場を離れようとしたが、それよりも先に矢部君が私に気づいた。
「大松さん?」
名前を呼ばれているのに逃げるのは避けることと一緒になると思った私は、教室に入ることにした。
教室に入ると矢部君がいつも女子に向けいる顔ではなく、心から笑ったような顔になった。
「はい。何かありました?」
さっきのことを無かったかのようにふるまうことにした。
だけどはっきり聞こえていたので私は心の中で聞かなかったことにしてほしいと思っている。
「最近全然話せなかったね。今から時間あるかな?」
避けられると思っていたので、時間などの話をされると思っていなかったので驚いた。
だが嬉しさが咲來に出て一言目が大声になる。
「ありますよ。何か話すことでもあるんです? 私のことを避けていたので嫌われたのかと思っていたのですが」
笑い話のように私は言った。
だけど矢部君はその話を聞いていると顔がどんどん白くなっている。
「違おうよ。確かに大松さんのことは避けていたけど嫌いになったわけではないよ」
焦って訂正するのでいつも見れない矢部君が、見れることがなんだかおもしろく思えてきた。
矢部君は何かを思い出したのか話はし始めた。
「そうだ、時間があるなら話しない? 一週間、話せなかったから。いやかな?」
矢部君は捨てられた犬のような顔に見えるので断ることがかわいそうに思えている。
心なしか耳まで見えてきた。
私は矢部君の前の席に座って、矢部君のほうを見た。
「君が俺と関わるとケガすることが分かったんだ。だから君に近づかないようにしてたんだ」
矢部君がそんなコトンなこと考えていたなんて。
私は矢部君のことを何も知らないのだと実感している。
話しかしていないのに、何が分かるのだと思い始めた。
でも何か一言は欲しかったと言いたいが、言って嫌われたくないので心の中で止めた。
「本当はこのことを伝えればよかったのに、その前に避けちゃったから」
そういうことを言われると私は何も言えなくなる。
自分のために考えていてくれたことなのに、文句なんて言えるわけない。
でも何も言わないと心臓に悪い。
「ごめんね。これから何かするときは話せなくても、メールで送るね」
「そうしてください」
それしか言葉が出てこなかった。
少し冷たい太陽になったかもしれないけど、今回のことで矢部君と話せなくなるのがどんだけ悲しかったのか気づかされた。
「そういえばさっき何か写真撮ってたみたいだけど、何を取ったの?」
その話にならなかったので、矢部君がスルーしてくれたのかと安心していたがそうではなかった。
今からでもなかったことにできないかと思っても、私一人しかいないので人のせいにもできない。
「怒りませんか?」
見せることはよかったけど、勝手に矢部君を取っていたことで怒られるのは嫌だった。
自分がしたことなので、仕方がないことなのはわかっているが、怒られたくない。
「怒らないよ。それに君が見ている世界を見てみたいんだ」
私の世界が見たいっていう人なんているんだ。
私が見ている世界なんて、ほかの人に比べたら何もない世界なのに。
スマホをポケットから出して、撮った写真を見せた。
「これなんですけど」
盗撮だと思われないように私はその時の夕日がきれいだったかを話した。
これで怒られても何も言えない。
本人の許可なくとると嫌がる人もいるって知っているのに、私は気づいたら撮っている。
何の言い訳にも習いが、悪い気分にするから「やめないと」とは思っている。
「こんなきれいな写真を撮ってたんだ。この陰って俺?」
きれいに夕日が差し込んだことによって、顔がはっきり移っていないのが救いだった。
それでも嫌がられるのではと考えてしまう。
「そうです。勝手に取ってしまって、すみません」
素直に私は謝った。
文句も聞くつもりで入るが謝って怒られないならどんだけでも謝るつもりだ。
土下座をしろと言うなら、してもいいともう。
「いいよ。それにこんなにきれいに撮ってもらえるなんて嬉しいよ!」
予想していた答えと反対の言葉が返ってきたので、私は驚いて何も言えなかった。
だけど二人でいるのに沈黙になるのは避けたいので、頑張って言葉を箪笥の奥から出すように出してきた。
「そんなことないです。でも、ありがとうございます」
罪悪感もあるがほめてもらえたことが素直にうれし。
自分が何かすれば、否定的な言葉や批判なのどが来るのでほめてもらうことは、死んだ母以外言ってくれなかった。
泣きそうになるが泣かないように耐えた。
「大松さんってそんなことするんだ! もっと大松さんのいろんな姿が見たいなぁ」
矢部君は渡すが撮った写真で笑顔になっている。
その姿に私の顔は暑くなる。
私は矢部君に褒められることがうれしくい。
この人になら、人前で話せ中区なった理由を言っても、友達でいて得くれると思ったので、話そうかなと思い始めた。
「どうしたの? 何でも聞くよ」
矢部君は私がしたいと思ったことにすぐに気づいてくれた。
聞いてくれるなら話しやすいけど、でもこんな話聞きたい人なんていないよね?
「私が人前で話せなくなった理由を聞いてくれますか?」
ここで聞きたくないと言われれば、私は気まずくなる。
だけど、矢部君さんは優しいから私の話を聞いてくれると思う。
「大松さんが話してくれるなら」
断られなくてよかった。
*
私は小学生のころ好きな人がいた。
その人に告白しようとしても勇気を出すことができず過ごしていた。
咲來に相談すると「ここで勇気出さなきゃ、何も変わらないよ」といられ、放課後にその子の家に行き、告白することにしたのです。
次の日。
学校に行くが放課後に告白しに行けるのかと心配で仕方がなかった。
休み時間のたびに咲來も心配して教室に来てくれた。
「大丈夫? 今からそんなのだと告白の時、噛みそうだね」
咲來に図星を疲れた私は何も言えなかった。
「放課後にはどうにかなっているよ。多分」
本当に放課後までにどうにかなっていないと、ちゃんと気持ち伝えられないよ。
さすがに咲來に隣にいてもらうわけにか行かないから、自分で頑張らないと。
放課後になった。
「ここからはあんた一人で行きなよ!」
咲來が途中まで私についてきてくれた。
心の準備がなかなかできなかったので、相手は先に帰ってしまったのだ。
なので今その人の家の前に来ている。
(頑張らないと。初めての感情だけど、咲來にも応援してもらっているのだから。ここで頑張らないと)
そんなことを考えながら私は呼び鈴を鳴らした。
出てきたのはきれいなお姉さんだった。
「勇気の知り合いの子ね。ちょっと待って今呼んでくるから」
そういうときれいなお姉さんは家の中に入っていった。
しばらくすると、勇気が出てきた。
その人を前にすると言葉がすぐに出てこない。
「俺に何か用? それに俺の家知っていたんだな」
本人を前にすると考えていた言葉も声にならなかった。
それでも黙っているのもおかしいから私は「何か話さないと」と焦っていた。
「今日は勇気君に伝えたいことがあってきたんだ」
はじめに言える最大の言葉だった。
だけど本当に伝えたい言葉は出てこなかった。
「その話長い? 長いなら家に入る?」
家に入れてもらったら緊張しすぎて倒れちゃうよ。
だけどこれを逃すと家に入れてもらえないかもしれない。
頭の中ではいろいろ考えていたが、出てきた言葉は反対の言葉だった。
「大丈夫。すぐに終わるから」
心の準備がまだ終わっていないのに何を言っているんだろう?
だけど、なんでもいいから言葉が出たのはよかった。
それでもその先の言葉は簡単に出ない。
勇気は早く家に入りたいという顔をしている。
このまま言わないわけで終わると印象も悪くなる。
心の準備ができないまま伝えたい言葉を口に出した。
「私、勇気君のことが好きなの」
いきなりの言葉に勇気は何も言わなかった。
私も何を話せばいいのかわからず黙ってしまった。
この沈黙がすごく怖い。
断られるならいいけど、ほかのこと言われたらどうしよう?
でも、もう行っちゃったからここから逃げるわけにもいかない。
「そっか。ありがとう。そのことを伝えに来てくれたんだよね?」
笑顔で言われて心がどきどきした。
伝えたいことも伝えたので、その場から逃げ出したので帰ることにした。
「うん。言えたから私帰るね。バイバイ」
「また明日ね!」
そこから駆け足で離れた。
次の日。
私はあまりにも恥ずかしくて学校に行く時間がいつもより遅くなった。
学校に着くと私を見てクスクス笑う声が聞こえてきた。
笑い声を気にしながら私は席に着いた。
(私何かしたかな? 昨日は心の準備ばっかりしていたから、変なことしても気づかなかったのか? でもそれなら、咲來が言ってくれるし……)
自分の行動を振り返っても変な行動だと思いつかず、悩んでいると咲來が駆け寄ってきた。
「咲來、おはよう。急いでるみたいだけど何かあった?」
今日は急ぐこともないのに、なんで咲來は急いでいるのだろうと思っていた。
走りたくないので、咲來に一人で行ってもらおうかと考えていると、咲來が私の腕をつかんできた。
「歩楓、あんた大変なことになってるよ」
私は何かしたのか思いつくことがない。
学校では普通にしているし、大体先の隣にいるので変なことしているとその場で治すことが多い。
だけど、学校に着くなり私はクスクスと笑われているのは感じれる。
「もしかしてさっきから笑われているのと何か関係あるのかな?」
自分のことではなかったら恥ずかしいので、咲來に聞けなかったが関係ありそうだったので聞いた。
「それのこと。あんた昨日、勇気に告白したでしょ? そのことが学年の全員が知っているのよ。何かしたの?」
なんでそんなことになっているのか私にはわからなかった。
心当たりもない。
勇気君がそんなことする人と思っていない。
「なにもしてないけど。なんでバレたんだろう?」
自分が言っていないなら、勇気しかいないはず。
もしかしたら、私が気付いていないだけで、どこかに見ていた人がいたのかな?
「少し心当たりがあるから、聞いてみるけど大丈夫?」
咲來が誰に聞いたのかは知らない。
そのためか昼休みに咲來とは会えなかった。
放課後、咲來は原因をわかったみたいだったが、なぜか言いにくそうにしている。
「笑われている理由わかったみたいだけど、何か言いにくいの?」
咲來は私と目を合わせてくれない。
そんなに私に居にくいことなのかな?
「そうだね。知らなくてもいいことだと思うけど、歩楓は知りたい?」
咲來はあまり言いたくないのか、でも私が気になっているのが態度に出ているから、伝えようとはしてくれている。
「そうだね。実質どっちでもいいかなっても思うけど、陰で言われていることに傷ついてないとは言えないかな」
ここで私が気にしていないよ」って言ったら咲來はどう思ったかな?
慣れているなんて言ったら、怒られてた気もするけど。
本当に木津ついていないけど。
「歩楓がこれ以上、傷つくなら言いたくない」
咲來は心配の顔を向けてくるが、この時の私は今日一日で何が起こっているのかを理解するのに時間がかかっていた。
家に帰ると、お母さんが玄関で倒れていた。
「お母さん⁉」
私は倒れているお母さんに何をすればいいのかわからなくて、固まってしまった。
だけどお母さんが私の存在に気づき、降り縛った声で「救急や読んでくれない?」と言ったので玄関にあった電話で110番した。
救急車を呼んだあと私は父親にも連絡したけど、電話には出てくれなかった。
母についていき病院の人にも連絡を取ってもらったが、父親が出ることはなかった。
「お母さん。お父さんと連絡つかないのだけど、どうしよう」
お母さんは起き上がろうとしていたけど、私が止めたので横になったままで話し始めた。
「歩楓が悲しむかもしれないけど、お父さんは多分ほかの女の人と一緒にいると思うのだけど。こんなこと言うものではないものね。……私は多分もうそんなに長くないわ」
母親が手術室にいるときに先生に呼び出され、言われた言葉だった。本当は父親がこの場にいるなら私の代わりに聞いていたけど、ここには父親がいなかった。
「お母さん。元気になるよね? 私を置いていかないよね?」
その時の私はお母さんを困らしていたと思う。
だけど母親がどこかに行く気がしていた。
昔の父親は好きだったけど今のあの人は好きではなかった。
「あんたが大きくなるまでは一緒にいるよ。歩楓のウエディング姿を見るまではいなくならないよ」
母親は笑顔でそういった後、面会時間の終了を看護師が知らせに来たので帰ることにした。
家に帰っても父親は帰っておらず、私は帰りにコンビニで買った弁当を一人で食べていた。
(あの人はお母さんの大変な時に何しているんだろう?)
この時から私は父親のことをあの人呼ばわりをしていた。
毎日、放課後には病院に向かい面会時間のギリギリまでお母さんと話していた。
お母さんと話すのはどんな時間よりも楽しくて、学校が毎日あるたび「早く放課後にならないか」と楽しみにしていた。
そのころから私はあの人に会う回数が少なくなっていた。
月曜日に一週間分のお金が机の上に置いてある。
お金だけが雑に置かれている。
まれに金曜日に帰ってきたと思えば、女を連れこんでいて「出て行け」と追い出される。
その間の私は公園で寒い中、病院の面会時間になるまで待っている。
そのころからお母さんは弱っていた。
「お母さん今日も会いに来たよ!」
笑顔で迎えてくれたけどお母さんはやつれていた。
「いつも土曜日は早いけど、何かあるの?」
お母さんにはあの人のことを話していない。
自分の病気のことでも大変なのに、あの人のことを考えることで病気が悪化してしまうかもしれない。
だから話すことなんてできない。
「何もないよ。学校の時間にどうしても目が覚めるから来てるんだ」
私がそうごまかすとお母さんは踏み込んでこない。
それから毎日通っているけど起きている時間も少なくなってきた。
私が行くときには寝ていることが多かった。
お母さんが寝たきりになって一週間がたった。
放課後、病院に行くとお母さんは病室でいつものように眠っていたが、様子がいつもと違った。
「お母さん?」
嫌な予感がした私はナースコールをした。
ナースが先生を読んで来るときには、お母さんはもうなくなっていた。
私はお母さんの手を握りながら、泣き続けました。
泣いている間も父親が来ることはなく、親戚のおじさんが来るまでだれ一人来ることはなかった。
それからお葬式の話はお母さんが残していた遺言書通りに行われ、私をどうするかの話になった。
「歩楓ちゃんはこの先どうしたい? あの家にまだ痛い? それとも何かほかに考えているかい?」
病院に来たおじさんがやさしく問いかけてくれた。
私はまだ母を亡くした悲しみから抜けていなかったが、あの人といることだけは何があっても嫌だった。
「私あの家にいるのだけは、あの人の家族でいるのは嫌です」
そういうとあの人の家族のおじいちゃんが立ち上がった。
「お前は自分の父親に向かって何を言い出すんだ。今まで生きてきたのは自分の父親のおかげだろうが」
私はおじいちゃんに怒鳴られた。
おじいちゃんの横にいたおばあちゃんは泣いている。
おじいちゃんがあの人のことをどう思っているかは知らないけど、私はほかに女を作る人って認識しているから誰に何を言われても考えが合わることがないと思う。
「私はお母さんのお見舞いにもお葬式にも来ないあの人のところなんて行きたくないで。おじいちゃんがあの人をどう思っているかは知りませんが、私の中の印象は最悪なので意見が変わることなんてないです」
そういうとおじいちゃんは何も言い返せなかった。
私はそのあとおじさんの家に引き取られた。
だけど母親がいないことで今まで母親だけに心を開いていたので、心をふさぎようになった。
それから学校に行く回数も減ったころ、私は話すことができなくなっていた。
そのころにあの人が知らない女を連れて、おじさんの家に来た。
「いまさら何をしに来たんだ」
あの人が来たときは真夜中化だったため私は寝ていた。
「いまさら何をしに来たんだ」
おじさんの怒鳴り声で起きた。
誰か来ているのかと除こうと思い、声のもとに向かう。
お客の顔を見て戻ろうと考えていたが、あの人の顔を見た瞬間私はこけて大きな音を立ててしまった。
そこからの記憶は覚えていないがあの人のもとに引き取られることになって、別れるときにおじさんが謝っていたことは今でも覚えている。
それから私は一言も話すことなく過ごしていたが、ひさしぶりに咲來に会うと涙があふれた。
そのあとは咲來の前では話せるようになったが人前などで話すときは必ず発作が起きるようになった。
*
そして今に至る。
今はましになって一対一なら話せるようになった。
何かあれば逃げればいいと思っているからだと思っている。
「これが私が話せなくなった理由です。しょうもないでしょ?」
真剣に聞いてくれた樹は無理して笑っている私の頭を撫でた。
「無理して笑わなくていいよ。それに大事なことを話してくれてありがとう」
私は笑い話にできるぐらい大丈夫と思っていたが、樹に受け入れられたことによって涙があふれてきた。
しばらく私は泣いていた。
樹は初めのほうは戸惑っていたけど、ずっとそばにいてくれた。
その姿を見て私はこの人の隣居ずっと痛いなと思い始めた。
だけど樹の隣にいることは大変で、女子を敵に回すので今よりひどいことをされるかもしれない。
だけどこの人が隣にいてくれるならどんなことでもがんばれそうと思っている。
そんなことを考えながらいると涙が止まった。
「もう大丈夫かな? 落ち着いたなら、帰りながら話そうか?」
そういってくれる樹は優しかった。
私と樹は学校を出た。
送ってくれるのはとてもうれしかったが、家には帰りたいとは思わなかった。
普段も思っていることだが今日は特に帰りたくなかった。
あの話を樹にした唐鎌おしれないが、これ以上樹を引き留めることもできなかった。
だけど私の顔はわかりやすかったらしい。
「帰りたくないなら、コンビニによらない? それでもう少しだけ話せないかな? それも嫌なら普通に送るけど、どっちがいいかな?」
樹が私に聞いてくれた時は、手で顔を隠したが気づいてくれたことがうれしかった。
「私もコンビニよりたい」
私がそう言うと樹は嬉しそうにして、コンビニの方向へと歩き出した。
私はその姿を見て、「帰りたい」と言わなくてよかったと心の中で思っている。
それからコンビニで温かいお茶と肉まんを買った。
だけど私はお金がないので肉まんは買わなかった。
肉まんを買わない私を見て樹は何があったのか聞かれたが私は「おなかすいていないから」と言ってお金がないことを隠した。
だけどコンビニの近くの公園で話しているとき、私のおなかが空気を読まず樹に聞こえるようにおなかがなった。
「本当におなかすいてないわけじゃないんだね。よかったら俺の半分食べない?」
樹が私に半分に切った肉まんを差し出してくれた。
お金を払っていない私が「もらっていいものか?」と思い断ったが、捨て犬のような顔をしたので私は半分の肉まんを受け取ることにした。
「渡してから聞くのは変なことなんだけど、肉まん嫌いじゃなかった? 渡す前に確認すればよかったんだけど、おなかすいていることが気になって先走って。ごめん」
私のことを気にかけてくれることがうれしい。
(樹君といるとなんだか落ち着くなぁ)
そう思うと顔がだんだん熱くなったのを感じた。
「大松さん、顔赤いけど大丈夫? やっぱり外で過ごすのはよくなかったよね。今からでもどこかに入ろうか?」
自分のせいでお金を使わせてしまうのが申訳なかったし、私の財布に何かを頼めるお金もなかった。
本当のことを言って樹君に呆れられたくもない私は何も言えなく樹君の顔を見ることができなかった。
(こんな私といたいなんて思わないよね。やっぱり寄り道なんてしなきゃよかった)
私は樹といる時間がとても楽しいと思っているが、樹に迷惑をかけたいわけでもない。
どこか店に入るお金もないし、樹にお金を借りるのもなんだか申し訳なく思いと思い自分から「どこかに入ろうか」とか「今からどこかに入ろうか?」に肯定できなかった。
そんなことを考えると顔を上をあげることができなかった。
「本当に体調悪くない?」
私はこれ以上心配させるわけにはいかないと思い顔をあげた。
「体調は大丈夫です。……本当のことを言うとお金がないのでどこかに入ることができないので」
素直に言うと樹は一瞬、どんな感情をしているかは顔から読み取れなかった。
そのあと考えるそぶりをしているので私は何を考えているかわからず、私は「もう一緒に居たくない」などと言われるのではないかと怖くなっていた。
「大松さんはおごられるのはあんまり好きじゃない?」
何のための質問かわからず、すぐに答えることができなかった。
樹の一つの質問でも深く考えてしまい、私と樹の間には沈黙が続く。
私が作っているはずなのに沈黙になるとだんだん申訳なさが心の中で大きくなってその場から逃げ出したい気持ちが膨らんだ。
「私がおごってもらうほどの価値もないですし、返すのに時間がかかってしまいます」
私は自分に価値がないと思っているため、おごってもらうのが嫌いなわけではなくしてもらう価値がないのだ。
人からの自分の評価など聞いたことがないので、いつも自分の物差しで測っては価値がないと思っている。
だけど楽しい時間はそんなことを考える余裕がないの、樹君と学校で話しているときは自分が樹君と話していることを何も考えなかった。
「大松さんは自分のことが価値がないっていうんだね。だけど俺にはそんなことないと思うよ。大松さんといて楽しいと思ったり、また話したいなって思うよ。だから大松さんに価値がないとは思わない」
樹君が一定くれたことはうれしいと思った。
お母さんが死んでどこかで生きる言いがないって思っていたけど、死ぬ勇気もない。
そんな私に価値なんてないって思っていたし、いなくても誰も困らないと思う。
だけど樹君がそんな風に思ってくれる。
(もっと樹君といたな。そしていろんな場所に行きたいな)
マイナスに考えていた思考が少し上に向き、自然に顔も上がった。
「まだ自分に価値があるとは思いませんが、私に価値があると思う人がいるというのは頭に入れておきます!」
話が落ち着くと私は樹君に家まで送ってもらった。
そのあとは夕食を一人で少し食べた。
そのあともお風呂以外は部屋から出ることもなく、ドアの前で継母が「おやすみなさい」と言っていたが無視をして、私も寝ていった。