「無駄なことなのに?」
「もしかしたら急に必要になったのかも」
「だとしても、自分は帰るっておかしくない?」
私だったらふざけるなと思ってしまう。まだ慣れていない相手に仕事を頼んだのなら、最後まで面倒を見るべきだ。
「俺、こんなんだから今まであまり仕事を任されてこなかったんだ。だからこうして頼まれるのは嬉しいから、最後まで責任を持ってやるよ」
嫌になるくらい真っ直ぐで、それでいて嬉しそうだった。
社長令息でイケメン。そんな人生楽勝な要素を持っているのに、人に対して強気に出たりしない。
「御上って、案外真面目だよね」
「あー……でも頼りないって言われるよ」
「それはわかる」
「え、わかるんだ。悲しい」
ガックリと肩を落とす彼に噴き出してしまう。気さくで話しやすくて、本当は一生懸命になりたくてたまらない人なのだろう。
「あとちょっとダサい」
「うそ、どこらへん? ネクタイの柄とか?」
「なんていうか……なよっとしてる」
でも多分、そこが人間らしいのかもしれない。仕事は今まで任されてこなかったから、きっと身に付くことがほとんどなかったのだろう。
……コーヒーをうまく淹れるスキルが上がるくらいだし、覚えもいい方だ。仕事を任せたらおそらくは力はついていく。