疑問に思いながら近づくと、私に気づいた様子の御上千香が顔を上げて、表情が明るくなる。
「加藤さん。どうしたの?」
「プレゼンの資料、忘れちゃって……そっちこそなんで残業?」
「宇崎さんから資料作るように頼まれたんだ」
「……なにそれ」
そんなの聞いていない。宇崎さんという名前で少し心がざわつく。
あの人はちょっと意地悪なところがあるのだ。プライドが高くて、人を見下しがちで自分よりも成績が低い人に対しては偉そうにものを言う。
「ちょっと見せて」
御上千香のパソコンを覗き込むと、やはりとため息が漏れる。
「これ、先週宇崎さんが提出してるから必要ないやつだよ」
「え、そうなの?」
きょとんとしていて状況を把握できていない御上千香に、少し躊躇いながらも真実を話すことにした。
「ただの嫌がらせだと思う」
おそらく私の指示に文句を言わずに聞いている彼を見て、宇崎さんは意地悪をしたのだろう。容姿端麗で社交的なため、営業部の人から可愛がられ始めた彼をよく思っていなさそうだった。
……それにしても彼が親に告げ口したりしない人だと分かった途端にこんな意地悪をするなんて最低だ。
「だから、やらなくていいよ」
「でも頼まれた仕事だから最後までやるよ」
御上千香は首を横に振って、パソコンと再び向かい合う。