「なにかお礼させて」
柔らかく微笑まれて困惑してしまう。お礼と言われても、彼にしてほしいことなんてない。
それになにやら甘ったるいような空気がむず痒くなってくる。
「あと俺、加藤さんに前から言おうと思っていたことがあって」
「え、なにを……?」
「お願い、加藤さん」
じっと見つめられて、息を飲む。
吸い込まれそうなほど、薄茶色の綺麗な瞳が私を捕らえている。
どうしよう。この空気は、もしかして——
「メイク、させてほしい」
懇願するような言葉に、表情が抜け落ちていく。
「は?」
「加藤さんにもっと似合いそうなのがあるから、一度でいいから試させて欲しいなって思ってて!」
「はい?」
私はコスメが好きだけど、あまり自分のメイクは上手な方ではないことは自覚している。そのため極力薄めのメイクなのだ。
……もしかして似合ってないって言われてる?
それに御上千香がメイク!?