私が意識を取り戻したのはそれから5日後だった。

私が目を開いた時に最初に見たものは見慣れた自分の部屋で泣きそうな顔をこらえながら必死に笑顔を保とうとしている斎藤先生の姿だった。

「斎藤先生、俺役に立てませんでしたね…

すみません…」

私が意識を取り戻したということに気がついた斎藤先生は大きく目を見開き、目に涙をため、それがこぼれないように着物の袖で拭ってから顔をほころばせた。

「あぁ、よかった…
もしこのまま意識を取り戻さなかったらどうしようって…

たく、どんだけ心配させればお前は気が済むんだ…

あぁ、でも本当に良かった。」

そう言う斎藤先生の顔はとても喜んでいて、先ほど涙はぬぐったものの、また涙が溢れてきて、ついにそれは斎藤先生の頬をつたってこぼれていった。

私はまるで自分のことのように喜んでくれる斎藤先生に感謝した。

「心配かけてすみません…

私が目を覚ました時に、大好きな斎藤先生の顔を見れて、本当に嬉しかったです。
ありがとうございます。」

そう言って布団から起き上がろうとしたのだが、起き上がるのはまだ早いと言われ、私は起き上がることを止めた。

「もしかしてずっとそばにいてくれたのですか?
なんか、夢の中で斎藤先生に呼ばれたような気がして、振り向いたら斎藤先生がいて、こっちに来いって呼んでくれていたんです。

斎藤先生の方に駆けていったら夢から覚めて…」

「確かに俺が寝ているとき以外はずっとお前のそばにいて呼びかけてはいたが…

そんなことが本当に起こるものなのか?」

そんな夢みたいなことが起こるわけない、でも目を覚ましたし…奇跡なのかもしれないと斎藤先生は首をかしげながら。

「やっぱり斎藤先生がわた…俺のことを呼んでくれたのですね。

実は斎藤先生に呼ばれる前に川の向こうにきれいな花畑がある場所にいたんです。

きれいだなぁって思って花畑の方に行こうと思って、どうやって川を渡ろうかなって悩んでるときに、斎藤先生の声が聞こえて。
今思い返すとあれって三途の川だったのかもしれません。

そして斎藤先生が呼んでくれなかったら私はその川を渡っていたと思います。」

黄泉の世界を今まで見たことはなかったけれど、考えれば考えるほど、あれは死にかけていたんだ、もう少しで永遠に眠ってしまうところだったんだと思うと少しだけ怖かった。

そんな意味の分からないような話をする私を斎藤先生は咎めることなく、何度も頷きながら聞いてくれた。

私は改めて運がよかったと感じざるを得なかった。

生きていてよかった、これからもずっと生きたい。

斎藤先生とともに生きたい。

そう思わざるを得なかった。