斎藤先生は一回頷くとなぜ私が男と偽っているのか、自分の知っていることを語りだした。

「杉崎は意志の強い人間なんです。

こいつが浪士に絡まれているときに俺が助けたのが出会ったきっかけなのですが、こいつは自分を新選組に入れてほしいって俺に言ってきたんです。

女人禁制だから駄目だって言うと、男装すると言い出して…

女だから弱いと決めつけ、あきらめさせようと手合わせして俺が認めたら新選組に入隊させると言って。

手合わせしたら、剣の持ち方はいいのに、重さに耐えられてなくて震えてて、こんなやつ一発で斬ってやろうかって思ったんです。

真剣で手合わせしてたから、間違って斬ってしまったと言い訳すればいいやって。

そうしたら案外強くて、右利きの構えをしていたからってのはいいわけですけど、こいつは俺の刀を吹き飛ばしたんですよ。

この細い腕で。

あぁ、こいつ面白れぇなって。

俺が直々に稽古をつけたらこいつはどんなふうに化けるのだろうって思って屯所に連れ帰りました。

最初はまともに刀を持てなかったのに、今ではこいつは立派な二刀流の武士になりやがって。

俺はこいつが努力をしているのを一番近くで見てきたから、だから女だって理由でこいつを新選組から追放するのはもったいないと思っているから、こいつが女だとばれるわけにはいかなかった。

そのほかにも理由があって。

こいつ、初めて会ったときに今は西暦何年ですか?

って俺に聞いてきて、頭がおかしいやつだと思った。

西洋の暦なんて俺は知らないし、和暦が一般的なのにって。

俺が和暦で答えると不思議そうな顔をして。

こいつ、俺にも言っていない何か重大なことを隠しているのかなって思うと、より一層見捨てることなんてできなかった。

これが規律違反なことはわかっています。

でも俺は切腹してもいいと思っています。

杉崎がここに残れるのであれば。」

斎藤先生が語り終わるまで松本先生は何度も頷きながら、斎藤先生の話を最後まで聞いていた。

そして松本先生は少しの間沈黙し、その後に口を開いた。

「なるほどね。

何事にも淡泊な君がそこまでして守りたい女性なのか。

医者は患者の治療に携わり、そこで知った秘密を口外することはできない、

そう、たとえこの新選組の、同じ仲間が重大な秘密を抱えていたとしても。

斎藤君、僕はこの話を聞かなかったことにする。

君はただ、杉崎君のことを守ってあげなさい。

さっき薬を塗るときに患部を見たけれど、さらしを巻いていたおかげかそんなに深くはなかった。

今は血も止まっているから、数日はかかってしまうと思うけれど、杉崎君は必ず意識を取り戻すだろう。

意識を取り戻した時にきっと君の笑顔を一番に見たいと思うはずだ。

だから君は笑顔でいなさい。

僕は毎日夕方に薬をもってこの部屋を訪れるから、その時だけは誰も部屋に呼んではいけないよ。

杉崎君が女だとばれてしまうから。」

そう言い終えると松本先生は立ち上がり、部屋を後にした。

斎藤先生はこの時ほど、松本先生が新選組の医者でよかったと感じたことはなかった。