数少ない恋愛的な経験がこれっぽちも役に立たない。味わったことも陥ったこともない感情に翻弄される。

なに・・・これ。(はや)るような。心許ないような。()けるような。溺れそうな。

誰かとの出会いって。きっかけがあって徐々に気持ちが生まれて、そこから始まるものだって普通に。今まではそうだった。

柳さんとは最初から違うのに。
違ったはずなのに。
いつから。
どこから・・・?!

秋生ちゃんどうしよう。もう二度と来ないって言えない。お兄のせいにも出来ない。

「あんまり遅くなるとタツオが文句言いそうだなぁ。着替えてくるから待ってて」

柳さんが不意に笑う。

答えの歯切れが悪いあたしの頭の上に、少し骨ばった掌が乗ったあと。カウンターの奥に消えてく後ろ姿を見送った。

お兄と一緒で三つ揃いは似合う。・・・ぼんやり思いながら。