耳の奥に残る低く透った声。とくん、と波立った鼓動。

まじまじと柳さんを見つめる。披露宴で、席を外したあたしをわざわざ追って来たのも本当に慰めようとして?子供と交わした他愛もない約束を思い出したから?そんなに純粋で誠実な(ひと)のわけ。

お兄が釘を刺すぐらいの軽薄な女たらしでいてくれなきゃダメなのに。騙し絵みたいな(ひと)。逆さまにしたら違う顔が見えてくるの。・・・狡い。キライ。

「寂しいならオレがいるよ?」

淡く甘く、滲んだ微笑みに惹きつけられたまま。伸びてきた掌があたしの片頬を撫でると耳の上をすり抜け、ひとつ結びの頭の後ろを捕まえる。

柳さんとの距離が狭まったのを分かってて拒めなかった。しっとり重なった唇の感触に抗わなかった。煙草の匂いがした。舌先に忍び込まれ口の中で交ざり合った瞬間も。脳が体が、痺れて動けなくなってた。

最後は優しく啄んでから離れた吐息。柳さんを見ないでわざと目を逸らした。

往生際が悪いのなんて嫌ってほど自覚してるけど・・・っ。白旗揚げたくない。口惜しすぎるったら。まんまとこの(ひと)に“たらされ”たのが!