取り替えっこ。そのワードが小骨くらい引っかかって手を伸ばす、記憶の収納庫に。

いる時は妹を猫可愛がりだったお兄の、留守が我慢できなくなると拗ねて家出しようとしたり。じっくり思い返せば、お菓子やオモチャで上手く志田に宥めすかされてた。飴とムチの割合で言ったらムチが多めな世話係。今と変わらず。

・・・あれっていつ頃?断片が蘇った。座り込んだ自分が若い男を見上げて、それから。『おにいちゃんをとりかえっこ』の科白に薄ら憶えが。

「・・・・・・隠れてたら、誰かが来て言われた気もします。・・・けど」

頑張ってもそれ以上はひねり出せない。すると、灰皿に煙草の灰を指で弾く仕草で彼が口の端を緩めた。

「淳人じゃなきゃヤダって、ふくれた赤ずきんちゃんと指切りしたんだよ。寂しくなったらオレがもう一人のお兄ちゃんになるからいつでも呼んでって。そしたら梓ちゃんが“ランプの精なの?”って」

一旦言葉を切り、短く紫煙を逃す。こっちに顔だけ傾けてやんわり。

「だからね、“指輪の精だよ”って嵌めてた指輪()をあげようとしたら、タツオが来て突っ返された。指切りは指切りだけどねぇ、オレの中じゃずっと」