日常って言葉を置き去りにして、誰にも邪魔されない二人だけの蜜月に溺れて。

そろそろ幸せボケを返上してみる気になった頃。あたし宛に荷物が届いた。送り状の差出人名は千倉淳人。筆跡はひと目で志田に間違いなかった。

段ボール三つの中身は服や靴。あの貸別荘のクローゼットに用意されてた数々だとすぐ思い当たる。そのうちの一つに茶封筒が挟まり、あたしのスマホとメモ書きが一枚入れられてた。

“若からです”。右上がりのクセ字でたった五文字。隣りから覗いた隆二が冗談めかす。

「淳人のヤツ、タツオを入れ忘れたのかなぁ」

お兄がその気なら。スマホを返す前に乗り込んで、勝手に飛び出した聞き分けのない妹をここから連れ戻せるのに。

わざわざ荷物にして送ったのは、あたしに時間をくれるってメッセージに思えた。隆二を見極めろって意味なのかもしれない。
そして、いつでもお兄はあたしを捕まえられる。鬼の面を外してくれたわけじゃない、まだ。