『お嬢さんをもらいます』が聞きたかったのも本心。でも。

根を張る地面を持たないで、流れるままに生きてきた(ひと)が。“岸辺”に自分を繋ごうとしてくれる。あたしに預けようとしてくれてる。これ以上のプロポーズなんていらないじゃない。

たとえ。つなぐ縄を解いて、行ってしまう日がくるとしても。

いつか。
戻ってこなくなっても。
あたしに残るのが傷だけでも。

きっと。
絆創膏を置いてってくれる。
少しでも和らぐように。
傷口が膿まないように。
一生分。

あたしだって、ただ黙って送り出したりしないわ。隆二の中に、あたしと過ごした時間をこれでもかって詰め込んで、何も持ってないなんて思わせない。

どこいたって、捨てるのが惜しくなればいいの。たった一つでも心残りになればいいの。そしたらきっと・・・!

鼻をすすり、ゆるゆると項垂れてた頭を上げた。どうせ酷い顔。メイクも落としてなくて。