落とされた谷底で、さらに上から氷水を浴びせかけられた。女に惚れてる眼じゃない。耳の奥に残響する。

可愛い。一番。大事。甘やかす言葉をいくつも貰った。くすみのない優しい目だった。

梓。・・・もらってよオレを。

ベッドに沈められてひとつに繋がる瞬間。喘ぐように隆二が言ったのを憶えてる。

差し出されたものが、志田の言う()とは別モノだったとしても。偽モノなんかじゃないの。誰にも触らせたくないくらい大事。

あたしが欲しいものを隆二はくれる。隆二が欲しいものをあげられる。・・・ねぇ他になんか要る?

谷底でずぶ濡れになってるのを、無慈悲に見下ろす志田の顔が浮かぶよう。あたしは懸命に声を張る。

「負け惜しみで言うんじゃないわ。カタチはどうだってあたしと隆二だけの意味がちゃんとあるの、だから」

『そんなものを柳に期待するだけ、無駄だと言ってるんですがね』

「・・・ッ、なんでそうやって決めつけるのよ。知らないくせに、少しくらい分かろうとしてくれたっていいじゃないっ・・・!」

聞く耳を持たない志田にとうとう堰が切れた。

お兄も志田も、隆二を人の心を持たない死神みたいに言わないでよ。口惜しくて悲しくて目頭が熱くなる。