耳に当てたスマホ越しに「ごめんなさい」と項垂れた。言い開きは一つだってない。誰の娘だろうと、極道だろうとルールは存在する。

「・・・もう絶対にしないから。約束するわ」

『若の耳に入れるつもりもないんでお嬢の自由ですが』

ぐっと視界が歪んだ。お兄に告白するも隠すも自分次第。志田が谷底にあたしを突き落とす。嫌そうな顔しても、今まで大概のことは許してくれた志田が情け容赦なく。

お兄が知ったら隆二に会わせてもらえなくなる、きっと。思っただけで内臓がぜんぶ捻じ切れそうに苦しい、息さえ出来ない。

子供の頃から筋は通せと教えられて育った。お兄に恥じない妹でいたいの、だけどっ。右に左に心の天秤が激しく揺らされる。

『・・・いい加減気も済んだでしょう。そっちに向かうんで大人しくしててもらえますかね』

「気が済んだ・・・って、そんな言い方・・・!」

一方的であたしの気持ちを無視した言い様に、さすがに感情的になる。それを指一本で撥ね付けるような、凄みを利かせた低い声。

『一度でも惚れたと言われましたか。・・・昔から自分に無いものを欲しがるガキでしたよ柳は。女に惚れてる眼かどうかくらい見抜けないとでも?』