喉の渇きと濃厚な気怠さに覆われながら意識が覚めた。型に嵌まったみたいに動けないと思ったら、筋肉質な腕が重しになったままで。

瞼をどうにかこじ開け、白っぽい明るさに目を細める。人工的な眩しさでもなく、外から差し込む陽差しだと知っても、朝イコール出勤ていう単純な式が思い浮かぶのに十数秒。

飛び起きた反動でベッドのスプリングが軋み、隆二の腕があたしの躰から無造作にずり落ちたのも構わず、スマホの行方を思い返す。

床に落ちてたバスタオルを巻き付けただけの、あられもない格好でリビングに駆け込み。黒革のソファにほったらかしのハンドバッグからスマホを手にした瞬間、一気に血の気が引いた。

時刻は昼日中の10時38分。遅刻のレベルをとっくに超えて無断欠勤。間違いなく江上さんから志田に連絡行ってる、当然お兄にも。もうどれだけ最悪だろうとやらかしたのは自分。

とにかく午後からでも。慌てて会社に電話をかければ、ワンコールで星が丁寧に社名を名乗り応答した。

「もしもしっ千倉です・・・っ」

『あれ千倉さん?体調大丈夫ですか?ゆっくり休んでくださいね~』

相手が分かって声を潜め気味に話し出す彼女。

『体調』『休んで』。もしかして、あたしから何の連絡もなかったのを、江上さんが誤魔化してくれたらしいと察した。

「あ・・・うんっ急にごめんね。ちょっとお腹痛くてだいぶ良くなったんだけど、その、忙しいなら午後から出ようかと思って・・・っ」

『今日はわりとヒマだし急ぎもないですー。なんなら、休んでくれた方がわたしも休みやすいじゃないですかぁ、生理痛ひどい時とか』

咄嗟の嘘を疑いもしないで、調子よく気遣ってくれる彼女に良心が痛む。