男慣れした(ひと)達とは違うんだから開き直るしかない。どうせなら初めっから残念フラグ立てとくわよっ。

顔を背けて反応を待った。沈黙が続いてぎこちなく視線を戻してく。すると。豆鉄砲を喰らったような男と目が合った途端、くぐもった笑いが弾け零れた。

「~~~っっ、帰るッ」

こっちは真剣だったのに、恥ずかしさが臨界点を突破して勢いよく踵を返せば。後ろから巻き付いて来た腕に否応なく捕まる。

「あー、じゃなくて違う。ゴメンあんまり可愛いすぎて、つい」

「・・・うるさい離して」

身動きが取れずに不機嫌な声で抵抗しても、1ミリも緩まない力加減。

「ほんとに嬉しくてさ」

「意味わかんないったら!」

「ねぇ、オレが消していい?昔の男も全部」

唐突に耳元で囁かれた切なげな声に一瞬で蒸発した、なけなしの強がり。

「梓のハジメテはオレにしといてよ」

毒みたいに骨まで甘く侵されて。ひたすら隆二に溺れてくのかも知れない。

「オレしか残らないといいなぁ、・・・オマエに」



狡くてたらしで、あたしの芯を簡単に揺さぶる(ひと)が。優しく笑った気がした。・・・自分が自分でいられた記憶はそこまでで途切れた。